Nikon Imaging
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vol.9 スポーツの最前線を捉える、ニコンのテクノロジー。

競技会撮影の舞台裏と、決定的瞬間を美しく記録するD3S。

一年を通じ、世界中で繰り広げられるスポーツ競技会。その現場には、選手を追うスポーツフォトグラファーの姿が常にあります。
今回インタビューをさせていただいた藤田孝夫氏もその一人。フォトエージェンシーの一員として、オリンピックやサッカーワールドカップなど幾多の名勝負を撮り続け、現在も各地を飛び回る日々を送っています。
そんな藤田氏に、華やかに見えるスポーツフォトグラファーの仕事の舞台裏や、スポーツ写真への熱い想いについてお聞きしました。
また、D3をきっかけにニコンユーザーになったという氏に、厳しい環境下でもプロの高い要求に応えるその機能性について、併せて伺っています。

1. フォトエージェンシーの仕事。

一般の報道写真とは異なる、フォトエージェンシーとしての写真。

先日行われた2010年アジア競技大会も取材されていたとのこと。16日間の撮影は大変だったのではないですか?

2週間という撮影期間は、特別に長いものではありません。ただ総合大会ですから、いろんな競技を朝から晩まで撮り続けなければならなかったので、ほとんど休む暇がありませんでした。その点は大変でしたね。
撮影は、全ての競技をカバー出来るよう、フォート・キシモトのスタッフ間で、スケジュールを割り振り対応しました。チームで細かなスケジューリングをして動かなければならないのも、オリンピックをはじめとする総合競技会の難しい点ですね。

撮影は、得意分野によって割り振られるのですか?

もちろんそういった点も考慮します。しかしそれだけでは全ての競技を取材することはできません。スタッフには様々な競技を撮り分ける能力が求められます。
私は今回、水泳、陸上、フェンシング、レスリングなど、個人競技を中心に撮影しました。私自身、個人競技を撮るのが好きですし、ずっと追いかけているテーマでもあります。

この冬は、また海外に取材に出られるのですか?

例えばスケートでいえばフィギュアやスピードなど、冬季スポーツが花盛りの時期です。今シーズンも世界各地、大きな大会を中心に撮影に出かけます。
ただ、大会は週末に行われる事が多いですから、日程が重なる場合も度々あります。そこでプライオリティの高い大会を決め、分担して取材を行っています。
取材はもちろん外部からの依頼で行くこともありますが、メインはフォート・キシモトとしての撮影となります。

ところで、フォート・キシモトさんはどのような会社なのでしょう?

私たちはスポーツ専門のフォトエージェンシーです。スポーツに関する取材活動・写真貸し出し・企画・製作・営業などを行っています。
1966年の設立以来、オリンピックやサッカーのワールドカップなど、世界のビッグイベントから市民スポーツに至るまで、国内外の各種スポーツを撮影してきました。それを皆さまに提供するのが、私たちの主な仕事です。
私自身は数年前にフォート・キシモトから独立し活動していますが、現在はスーパーバイザーとして会社に参加しています。

2010年 セパ・タクロー女子準決勝。中国vsミャンマー。
2010年 フェンシングフルーレ男子団体決勝。
北京オリンピック選手村前にて。
2010年 競泳男子200m平泳ぎ決勝。

フォトエージェンシーのフォトグラファーの仕事について、少し具体的に教えていただけますか?

ストックフォトのレンタルといった業務を行う為には、ある程度多様性を持った写真を撮らなければなりません。雑誌の企画などに対する撮影依頼であれば、基本的に企画内容に沿った写真だけ撮影すれば良いのですが、私たちはとにかく様々なシーンを押さえる必要があります。それにあらかじめ依頼があるわけではないので、撮ったカットがそのまま収益に結びつくわけではありません。それこそ1000カット撮って1カット売れるといった世界です。
それでもフォトエージェンシーという看板で仕事をやる以上は、撮り続ける責任があります。世の中の流行に左右されて、撮ったり撮らなかったりということでは、積み重なっていかないですよね。時代の隆盛にあらがっても撮り続ける。その厳しさや難しさはありますね。

会社としての活動方針といったものはありますか?

多くの人たちがスポーツに魅力を感じ、スポーツへ参加するきっかけとなる、そんな写真を提供できればと考えています。テレビなどの映像とは違う、スチール写真でしか表現できないものもあると思いますし、それを追求したいといった想いは、会社としてもずっと持ち続けています。
例えば、以前テレビ関係の方から言われたのは、水泳の水しぶきをピタッと止めて焼き付けた感じなど、スチール写真で撮った時の「止まり感」は動画からは取り出せないということ。映像畑の方からそのような話を聞き、あらためて動画と静止画の表現の違いに気付かされたこともありましたね。

事前の準備も大変なスポーツ写真。

スピードスケート会場(長野エムウェーブ)にて。
北京五輪にて 天安門広場でマラソンランナーを待つフォトグラファーたち。
北京五輪 借りたマンションの臨時居住証明を近くの公安に申請。

藤田さんがフォトグラファーになられたきっかけは?

元々、写真よりスポーツが好きな少年でした。というよりも、子供の頃はほとんど写真など撮ったことも無かったんです。高校の時に観戦したテニスの大会で、撮影しているフォトグラファーを見て、その時に初めてフォトグラファーという職業を知ったほどです。
高校卒業後、進路を決めるにあたり、その時見たフォトグラファーの印象が強かった事とスポーツに関われるという動機で(笑)、写真学校に通いました。フォート・キシモトに入ったのは、その時の先生の紹介です。運も良かったと思います。

スポーツフォトグラファーになられて、20年以上になりますね。その間、写真を巡る環境や、状況は変わりましたか?

ずいぶん変わったと思います。我々の仕事はコマーシャリズムと切り離せませんから、やはりその時々の景気にも左右されます。不景気の今は、ニュース性のある写真に需要がありますね。入社当時はバブル期でしたから、広告的なスポーツのイメージ写真にニーズがありました。
それから肖像権に関しても、厳格になってきました。昔ほど人物写真を気軽に使えません。このことも、今の私たちの仕事に大きく影響していますね。

スポーツ取材についてお聞きします。撮影はどのような流れで行われるのですか?

まずそのイベントの取材許可を取るところから始まります。取材申請書に所属先、目的などを記入し大会事務局に申請。許可がおりると撮影のためのID発行。そこで初めて取材が可能になります。これは国内外、同じですね。
でもこの許可が簡単にはおりない。特に独立してからは痛感しました。

IDの取得はそんなに大変なのですか?

いつも苦労しています。特に最近は、撮影に関する規制が厳しいですし。
かつては、不特定多数の人に写真が勝手に出回るということは、ほとんどありませんでした。仮に不適切に写真が使われても、紙媒体だけであればある程度出所は判るので、責任の所在もはっきりしたのです。しかし最近では、インターネットなど誰もが情報発信出来るインフラがありますよね。そのためアマチュアの人が、撮影した写真を主催者の意図しない形で流してしまうといったことが多く発生しました。
このようなことを防ぐため、主催者は事前に厳しくチェックをするようになったのです。
撮影に入る前に、まずこの状況と戦わなければなりません。本当はもっとクリエイティブな面に集中していたいのですが…。

各協会の身分証。

フォート・キシモトさんのような老舗でも苦労されるのですか?

そうです。主催者側の意図や事情は様々ですから。
それに、特に大きな大会となると撮影エリアの広さの関係もあり、キャリアのあるフォトグラファーでもIDを取得出来るとは限りません。さらにフリーランスや雑誌記者は、新聞社に所属するジャーナリストに比べ、なかなか許可がおりないことも多いのです。
そこで、日本スポーツプレス協会(AJPS)や国際スポーツプレス協会(AIPS)といった団体が出来ました。所属するフォトグラファーの身分を明らかにし、取材を円滑に行いやすくするために、様々な支援を行っている組織です。私自身、日本スポーツプレス協会の運営にも携わっています。

スポーツフォトグラファーを取り巻く環境。

藤田 孝夫氏
2010年2月
2010年2月
2010年6月

海外に出ると、日本との撮影環境の差は感じませんか?

それはありますよ。でも、決して悪い点ばかりではありません。むしろ日本では、情報の統制という観点から主催者側の縛りが厳しいケースが多いように思います。取材ポジションにしても、海外の方がおおらかですね。
それに海外では、大手の新聞社・通信社とフリーランスを比較的並列にみてくれます。日本ではトップに新聞社、通信社と続き、最後の方にフリーランスといったプライオリティがやはり存在しますし。

撮影場所に対する優先順位などもあるのでしょうか?

決められた撮影ゾーン内での順序立てというものは、基本的にありません。ただ大きな大会では、陸上競技や水泳など比較的選手の近くまで寄って撮ることが出来るといった点は、やはり大きなメディアさんは優遇されていると思います。
ちなみに撮影は、大抵狭いエリア内で密集しながら撮ります。スポーツは、撮影する許可はもらえても撮影位置に関する制約がきつい。自由に撮影出来るようなことはまずありませんから、その状況の中でよい写真を撮るためには、カメラや望遠レンズなどの性能にも頼るところが大きいですね。

一口にスポーツフォトグラファーといっても、いろんな立場の方がいらっしゃるのですね。

大きく分けると新聞社・通信社のようなメディア関係と、私たちのような会社も含めた中小のフォトエージェンシーやフリーランスに分かれると思います。また、それぞれに撮る写真の傾向も違っています。
新聞社などのフォトグラファーは、報道的要素の強い写真を撮ります。メインの被写体をとにかく写し込むということを第一に考え、後から紙面のレイアウトにあわせて構図を決められるように、トリミングを前提とした撮り方をします。すぐに転送するので、ファイルサイズも小さめに撮影しています。
私たちはフォトエージェンシーという仕事柄、報道的なニュアンスも持たせながら、広告に使用されることも意識して撮っています。それに私たちはかっちりフレーミングを決めて撮り、トリミングはしません。撮ったらそのまま完成品という意識で撮っています。トリミングは写真を貸し出した先のお客さんがやることですし。
だからこそカメラのファインダーの視野率も100%であることが重要です。

確かに新聞などのスポーツ写真と、雑誌や広告に使われている写真では、随分と雰囲気が違いますよね。

それにフォトグラファーとしての意識も、違うかもしれませんね。
新聞社の写真部の人は配属で決められることが多いようです。対して私たちは、最初から「一写真家」であることを目指してきました。もちろん一概には言えませんが、現場は同じでもフォトグラファーとして立っているフィールドが違うように思います。
ちなみに新聞社では、取材記者も写真を撮ったりするんですよ。専門のフォトグラファーと違い、記者はかなり自由に動きながら撮れるので、以外と面白い写真になることもあります。ただ、稀に撮影現場のルールやマナーを知らない方もいます。記者とカメラの明確な分別化は、昨今必要かなと感じています。

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