Nikon Imaging
Japan
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第五十一夜 Nikon SoftFocus Filter Soft1、Soft2

ソフトフォーカスへのオマージュ
Nikon SoftFocus Filter Soft1、Soft2

第五十一夜は、フィルターのお話です。ニッコールではないよと言わそうですが、なにを隠そう古い日本光学製のフィルターは、NIKKOR FILTERと言う名前で販売していたのです。当時の各種フィルターの開発履歴を紐解けば、歴代のレンズ設計者の名前が次々に出てきます。たかがフィルター、されどフィルターです。ニコン製フィルターは、他のニッコールと変わらぬ気高き設計思想で商品化されていました。
今夜はその中でも非常に個性的なニコンソフトフォーカスフィルターを取りあげます。このソフトフォーカスフィルターは、他に類を見ないユニークな技術で製造されたものでした。さぁ、設計者の思い、開発秘話を紐解きましょう。設計者の目指していたものは何だったのでしょうか。そして肝心の写りは良いのでしょうか。
今夜はニコンソフトフォーカスフィルターの秘密を解き明かします。

佐藤治夫

1、ソフトフォーカス(軟焦点)とは?

通常、写真レンズはよりシャープなレンズが好まれるというのが一般的です。しかし、ポートレートやブツ撮りの世界では、必ずしもシャープなレンズばかりが好まれるわけではありません。マイクロニッコールの様に毛穴の1本1本まで忠実再生するレンズは、時として被写体の欠点を露わにします。そんな時に好まれて使用されるのが、ソフトフォーカスレンズやソフトフォーカスフィルターです。ソフトフォーカスの特徴は、ピントの核になる部分はしっかりした解像感があり、そのうえでコントラストを低めるようにフレアーがベールのごとく取り巻いた様な写真が写せることです。

ソフトフォーカスレンズの歴史は古く、私が知る最も古いソフトフォーカスレンズは1920年(大正9年)にアメリカのウォレンサック社から発売されたベリト(ベリート)(Verito Diffused Focus 6inch f/4)で、前後2組3枚のレンズで残存収差の多い軟調写真を撮影する専用レンズでした。球面収差をはじめとした諸収差を残存させることで光学的にフレアーを発生させるもので、現在のソフトフォーカスレンズの元祖と言えます。ソフトフォーカスレンズの特徴は、美しいフレアーの発生や美しいボケ味が得られることです。また、見かけ上の被写界深度が非常に深くなることも特徴の一つです。また、絞り込むことによってソフト量が変化し、ついにはシャープなレンズに変貌することも大きな特徴と言えるでしょう。ソフトフォーカスレンズの場合、絞り値は露出を合わせるための機能ではなく、ソフト量を調整するための機能なのです。

2、ソフトフォーカスフィルターとは?

ソフトフォーカスのためのアタッチメント(フィルター)にも歴史があります。古くは映画や商業写真の世界で「紗をかける」技術が一世を風靡しました。「紗」とはある種の布のことで、その紗をかける(レンズの前につけること)でソフトフォーカス効果を得ていました。その技術が発展して、ソフトフォーカスフィルターが誕生したと考えられます。

ソフトフォーカスレンズが球面収差によってフレアーを発生させているのに対し、ソフトフォーカスフィルターはフィルター表面に傷や、凹凸の小さな水滴状レンズを形成してフレアーを発生させるものでした。しかし、フィルター表面についた傷や凸凹は、瞳の陰影として映り込みます。要は、ボケに凸凹や傷が写ってしまうのです。これは点像強度分布を観察すると、より明確に理解できます。点像強度分布は結像点においても、発生するフレア成分に沢山の山・谷やエッジが発生するのです。この現象は、所謂二線ボケの要因になります。

しかも前ボケ、後ボケ両方にその傾向が生まれます。実はこれがソフトフォーカスフィルターの欠点でした。本来ならばソフトな描写を求めているわけですから、ボケ味の悪化は最も避けたい欠点になります。

また、ソフトフォーカスフィルターはソフトフォーカスレンズと異なり、被写界深度は変化しません。したがって、深度の浅い状態でソフト効果を得られることができます。すなわち、それを利点と考えることもできるのです。深度は絞り込むことにより深くなりますので、小絞りにすることで疑似ソフトフォーカスレンズの描写を得ることができます。また、ソフトフォーカスフィルターはソフト量の調整は困難です。したがって、フィルター作成時に当初から最適なソフト量を設定する必要があります。好ましいソフト量の最適化を考慮し、設計する必要があるのです。

3、ニコン ソフトフォーカスフィルター ソフト1、ソフト2の特徴

それでは、ニコンのソフトフォーカスフィルターにはどのような特徴があるのでしょう。ニコンのソフトフォーカスフィルターの生みの親は綱島輝義氏です。綱島氏はニッコール千夜一夜物語でもたびたび登場するニッコールレンズの設計者です。ニコンではフィルターにおいても一線級の光学設計者が開発を行っていました。まさに先人たちの製品に対する熱い思いが伝わってくるようです。

実はニコンのソフトフォーカスフィルターに使われた技術は、表面加工ではなく、フィルターの化学的処理でした。綱島氏たち開発グループは、瞳の陰影無しにフレアーを発生させる仕組みを化学的処理技術に求めました。その方法がイオン交換法という方法です。まず、フィルターのガラス素材の中で酸化ナトリウムが含有するものを選びます。そのガラスの表面に銀を塗布しある条件下でイオン化させます。その銀イオンとナトリウムイオンをイオン交換させます。そうするとイオン交換した部分の屈折率が変化し、所謂GRIN(Graded Index)レンズの様な屈折率分布を発生します。

イオン化が連続的に行われるため、屈折率変化も連続的に起こるのです。この効果によって、理想的なフレアーが発生するのです。そのため、一般にフィルターガラスとして使われている安価な硝材ではなく、その数倍はする高価な光学ガラスが使われています。ナトリウムイオンが発生しやすい硝材が必要なのです。イオン化の進み具合でフレアーの発生量、すなわちソフト量が決まります。Soft1が弱めのソフト量で、Soft2が強めのソフト量に設定されており、生産管理はMTFの減衰率で全品管理されていました。まだ、MTF測定機の珍しかった時代、ニコンのソフトフォーカスフィルターは技術の最先端を走っていたのです。また、この技術は1972年(昭和47年)に日本特許を出願し、翌年1973年に米国特許を出願しています。ニコンの発明を内外に知らしめた瞬間でした。

綱島氏は、従来のソフトフォーカスフィルターの欠点が許容できなかったに違いありません。ニコンのソフトフォーカスフィルターは、他と全く異なった技術により、疑似ソフトフォーカスではない本格的なソフトフォーカスを目指したものでした。

手元に開発当時の品質保証課のテストレポートがありますので見てみましょう。レポートの締めくくりにこのフィルターの特徴がいくつか書かれています。

  1. 芯のあるフレアーで解像力が良好。
  2. 小絞りでもフレアー効果が低下せず比較的大きい。
  3. フレアーに着色がなく白色に近い。
  4. 他のソフトフォーカスフィルターに比較して解像力が高い。
  5. 色調、色にじみ、ボケ味は良好で特に問題はない。

綱島氏の狙いはマスターレンズの高い解像力を維持することと、美しいフレアーの形成と良好なボケ味の実現でした。目指していたのはアタッチメントのレベルではなく、本格的なソフトフォーカスだったのです。このソフトフォーカスフィルターは、フィルター表面に凸凹や傷を持たないため、ボケに陰影が出てボケ味を阻害することもありません。まさにソフトフォーカスレンズに最も近いフィルターでした。それでは綱島氏は、なぜ、ここまで本格的なソフトフォーカス描写にこだわったのでしょうか?

当時の開発履歴を見ると本当に開発したかったレンズの姿が浮かんできます。それは大判カメラ用ソフトフォーカスレンズだったのです。当時、大判カメラで盛んに使われていたソフトフォーカスレンズは、ローデンストック社のイマゴンでした。綱島氏はこのレンズを超えるソフトフォーカスレンズを開発したかったに違いありません。当時の記録によると、有名写真家が大判カメラによるポートレート写真の比較テストを行なった記録が残っています。非常に良い結果が出ており、ソフトフォーカスフィルターの開発が成功したことを物語っていました。

綱島氏は、ソフトフォーカスレンズの欠点である、絞ることで急激にソフト量(フレアー)が減少する点と、前ボケと後ボケの描写が大きく異なり、一方はフレアーが少なく二線ボケの領域が存在する点を改善したかったようです。本来、ソフトフォーカスレンズの絞りは、ソフト量を可変する役目であると言う認識が一般的でした。しかし、綱島氏はそれを、絞り本来の目的である光量調節機能のために使いたかったのです。そのため、綱島氏はソフトフォーカスレンズの開発を断念し、良質のソフトフォーカスフィルターの開発に着手するのです。まさに綱島氏の開発したソフトフォーカスフィルターはマスターレンズを選ばず、広角でも望遠でも良質のソフトフォーカスに仕立ててくれる魔法の杖でした。特に小絞りで使用すると深度が深くなり、どこまでもフレアーが取り巻くまさに理想的なソフトフォーカスレンズになるのです。

4、開発履歴

それでは開発履歴を紐解きましょう。ニコンソフトフォーカスフィルターを開発したのは、先にご紹介しましたが、ニッコール千夜一夜物語でしばしば登場する酒豪の綱島輝義氏です。綱島氏にとってソフトフォーカスの研究は長期テーマともいえるものでした。

さて、報告書と図面を紐解いて見ましょう。報告書によると、試作図出図は1977年(昭和51年)の初夏のことでした。その後、同年試作、評価を経て満足いく結果となって、同年の師走に量産図が出図されて量産がスタートします。開発は短期間で行われました。当時の資料に目を通すにつれて、綱島氏のソフトフォーカスに対する情熱や思いが伝わってきます。このフィルターがニコンの、いや綱島氏の回答だったのです。きっと満足いく出来栄えだったに違いありません。

5、ニコンニューソフトフォーカスフィルターの開発

2003年に公布されたRoHS指令(Restriction of Hazardous Substances=電気・電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する欧州議会及び理事会指令)をご存知の方も多いのではないでしょうか。法令として施行したのは2006年でした。この指令がカメラやレンズも対象になるということで、日本の光学・カメラメーカー、硝材メーカーは大騒ぎになりました。特に鉛、ヒ素フリーの実現は、光学ガラスを全面的に改良する必要がありました。当時、硝材メーカーは非常に俊敏に対応しました。それに伴い、ニコンでも全製品の設計変更を余儀なくされました。そのなかで、光学ガラスを用いていたニコンソフトフォーカスフィルター・ソフト1、ソフト2の硝材も変更する必要があったのです。しかし、ここで大問題が発生します。イオン交換法により製造されるこのフィルターは、ナトリウムの含有量など、通常の屈折率や分散という光学恒数とは異なる特性が必要でした。急遽新ガラスを用い実験したところ、鉛・ヒ素フリーの代替え光学ガラスではイオン交換不可能と言う結論になりました。

この唯一無二のソフトフォーカスフィルターが作れない。関係者は唖然となりました。そして、製造中止を余儀なくされたのです。私はどうしても、このソフトフォーカスフィルターを無くしたくありませんでした。そこで、私はイオン交換法とは異なる手法で開発を着手しました。極力、旧ニコンソフトフォーカスフィルター・ソフト1の特徴である解像力の良さ、着色のない最適なフレアー量、ボケ味の良さを実現させるための代替え案の研究を重ねました。開発開始は2005年梅雨の時期でした。そして完成したものがニコンニューソフトフォーカスフィルターです。そして、2007年の春に発売を開始いたしました。このフィルターはガラス表面を加工する手法は使っていますが、極限まで微小レンズの大きさを小さくすることで前記したボケに出る陰影を最小限度に抑えました。フレアーの出かたや解像力など、新旧取り比べていただければ旧ソフトフォーカスフィルターに非常に近い特性があることがご理解いただけると思います。作例(作例1、作例3)を比較していただければ幸いです。旧ソフトフォーカスフィルターの代わりに、ぜひニコンニューソフトフォーカスフィルターをご愛用いただければ幸いです。

6、実写性能と作例

作例1(soft1)

ニコンD800 NIKKOR 58mm F1.4G + Soft1 Filter
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/125sec
ISO:720
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

作例2(soft2)

ニコンD800 NIKKOR 58mm F1.4G + Soft2 Filter
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/125sec
ISO:800
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

作例3(New soft)

ニコンD800 NIKKOR 58mm F1.4G + New Soft Focus Filter
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/125sec
ISO:800
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

次に実写結果を見ていきましょう。

作例1、作例2、作例3は、ニコンソフトフォーカスフィルターソフト1、ソフト2とニューソフトフォーカスフィルターによるブツ撮りの作例です。どのフィルターもハイライトの着色のない美しいフレアーによる滲みが得られています。また、特記すべきは解像力の高さ。椅子やカーテンの描写をご覧ください。一般のソフトフォーカスフィルターと比較しも格段に高解像を維持していることが分かります。なお、ソフト1に比較してソフト2のフレアーが大きく(ソフト量が多く)この作例のようなシーンでは好印象です。また、ソフト1とニューソフトフォーカスフィルターを比較してください。かなり類似していることがお分かり頂けると思います。新しいフィルターが、旧ソフトフォーカスフィルターの描写を伝承できたと言えると思います。

作例4(soft1)

ニコンD800 NIKKOR 58mm F1.4G + Soft1 Filter
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/640sec
ISO:200
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

作例5(soft2)

ニコンD800 NIKKOR 58mm F1.4G + Soft2 Filter
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/500sec
ISO:200
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

作例6(New soft)

ニコンD800 NIKKOR 58mm F1.4G + New Soft Focus Filter
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/640sec
ISO:200
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

作例4~作例6はポートレートに使用した例です。作例1~3と同様にポートレート写真を比較撮影しています。どの作例もハイライトの着色のない美しいフレアーによる滲みが得られています。また、解像力の高さも見て取れます。目の部分の解像感、髪の毛、あごの部分のフレアー等、とても特徴的です。しかし、ポートレートの場合はソフト2ではソフト量が少し強すぎるかもしれません。ソフト1またはニューソフトフォーカスフィルターのソフト量が最適の様に思います。ここでもソフト1とニューソフトフォーカスフィルターを比較していただければ、かなり類似していることがお分かり頂けると思います。

7、ソフトフォーカスニッコールS 105mm F2.8

実は綱島氏のソフトフォーカスの研究のスタートは、ソフトフォーカスレンズの開発から始まっていたのです。皆さんは初耳でしょうが、当時の日本光学工業でも古くからソフトフォーカスやボケ味に対する研究を行っておりました。その証拠が今回ご紹介するソフトフォーカスニッコールS 105mm F2.8です。このレンズの設計者はもちろん綱島氏です。1967年(昭和42年)の正月に設計報告書が提出されています。特記すべきは、1960年代のとても早い時期からソフトフォーカスの研究に着手していたことです。1960年台と言うことはニコンF発売当初から、ラインナップを計画し研究を行っていたことになります。その脈々と続くソフトフォーカス、ボケ味の研究は、ソフトフォーカスフィルターへと続き、ひいてはDCニッコールを生み出す原動力になります。ニッコールオートの時代にニコンはボケ味が悪いという不当なレッテルを張られた不幸な時期がありました。しかし、先人たちはどこよりも早く、ボケ味やソフトフォーカスに関する研究を行っていたのです。先人たちはこの言われなき風評には、さぞかし悔しい思いをしたことでしょう。

さて、話を戻します。このソフトフォーカスレンズは1966年(昭和41年)に試作され、評価されます。残念ながら商品化はされませんでした。

ソフトフォーカスニッコールS 105mmF2.8

写真のように社内に1本だけ試作品が存在します。世界で1本だけしか存在しないのかもしれません。このレンズの構成は、変形ガウス型で、一般的な6枚構成のガウス型の中央に両凹レンズを追加した構成になっています。また特記すべきは、ソフトフォーカス化のために非球面を導入していることです。この当時の非球面レンズは1つ1つ手磨きで製造されておりました。

量産品としてニコン初の非球面レンズを持った写真レンズはOPフィッシュアイ(1968年発売)ですが、このレンズは試作品とはいえ、ほぼ同時期に当時の最新鋭の技術を導入していたことが分かります。このソフトフォーカスニッコールが発売されていれば、もしかしたら量産品で非球面レンズ使用の第1号になったかもしれません。

それでは、このレンズの収差的な特徴を見てみましょう。このレンズの一番の特徴は特殊な球面収差形状にあります。F2.8の口径の中で、まずF5.6相当の入射光の位置において、縦収差で約-0.1mmの膨らみを持った所謂フルコレクションの球面収差を持っています。また、それ以上の口径部分、F2.8~F5.6相当の入射光の位置では縦収差で-2.0mmの大きなふくらみを持ったアンダーコレクションの形状をしています。単純な球面収差ではなく、くねくねと曲がりくねった球面収差曲線になっているのです。一般に、ソフトフォーカスレンズの球面収差は、単純にプラスかマイナス方向に増加もしくは減少する球面収差を持っているのが常です。なぜならば、火面(火線)を一方向のみとすることで良いボケ味を実現するためなのです。なぜ綱島氏は球面収差にこのような構造を持たせたのでしょうか?

それは先に述べたとおり、ソフトフォーカスレンズの欠点でもある絞込みによるソフト量の減少を少しでも改善したかったのです。要はF5.6でもやわらかい描写を残したいという思いから、小絞り部分の球面収差を大きく発生させたのです。また、この球面収差はソフトフォーカスレンズのピント合わせのしやすさにも貢献しています。綱島氏はいち早くソフトフォーカスレンズの欠点を理解し、技術的解決法を模索しました。

しかし、この考察が裏目に出ます。結果はソフトフォーカスレンズの特徴である、ボケ味の良さ、深度の深さ、比較的高解像をことごとく阻害してしまったのです。

F5.6より小絞りの球面収差を少なくすることで、点像に明瞭な芯(核)が出来ます。それが深い深度と、高解像を得る条件でした。また、球面収差を何度も折り返した結果、火面(火線)が幾重にも重なって複雑なボケになってしまいました。綱島氏のアイデアは残念ながら成功しませんでした。しかも、当時高価だった非球面を使用したレンズだったこともあり、製品化はされませんでした。しかし綱島氏はこの経験をばねにして、本格的なソフトフォーカスの研究に没頭していきます。その研究はレンズからフィルターへと、軌道修正されることになります。その成果がニコンソフトフォーカスフィルターソフト1、ソフト2だったのです。

作例7

ニコンDf NIKKOR-S 105mm F2.8
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/125sec
ISO:200
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート

作例8

ニコンDf NIKKOR-S 105mm F2.8
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/60sec
ISO:200
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

作例9

ニコンDf NIKKOR-S 105mm F2.8
絞り:F2.8
シャッタースピード:1/200sec
ISO:400
画質モード:RAW
ホワイトバランス:オート
ピクチャーコントロール:ポートレート
撮影日 2013年11月

製品開発には、困難や失敗がつきものです。しかし、先人たちはその失敗をばねにして、より良質な製品開発を成し遂げました。ニコンのソフトフォーカスフィルターには、こんなドラマチックな歴史があるのです。

最後にソフトフォーカスニッコールS 105mm F2.8の作例(作例7~9)をご覧ください。ソフト量はひかえ目ですが、ピントの合ったところは意外ときれいなソフトフォーカスになっています。本当に失敗作だったのでしょうか。皆さんはどう思われますか。