小型ボディという制約の中で生まれた、Info変更表示
ソフト面で、多彩な機能を小さいボディに詰めこんだ点での苦労やエピソードはありますか?
折井 「D3は、液晶モニターの下と肩部分に表示パネルがあり、双方で情報を表示しています。また背面の広い面積を利用して操作ボタンを数多く配置できています。これに対しD700は液晶モニター下部の表示パネルがなく、肩部分の表示パネルもペンタ部が大きいためD300より小さくなっています。表示面積が減った分、文字を小さくしては視認性が悪くなってしまいますので、表示する情報の一部を液晶モニターの情報画面に移して、Infoボタンで表示させるようにしました。また操作ボタン数の減少には、ファンクションボタンに設定できる機能を増やすことで対応しています。ライブビュー起動もファンクションに割り当てられるようにするなど、使い勝手の良さを考慮しました。」
ユーザーインターフェイスもかなり練られたと思いますが。

- infoボタンの操作方法やカスタム機能について説明
する折井さん
折井 「D700の前に、私と村上さんとのタッグで、最初にD40を作ったんですね。D40には肩液晶表示もなく、ボタンも4つしかなかったのですが、試行錯誤した結果、Info変更表示という方法を開発しました。そのノウハウをD700にも生かしています。情報表示画面から再度Infoボタンを押すと、撮影メニューやカスタムメニューの切り替えを直接呼び出せる機能です。撮影メニューやカスタムメニューの切り替え等はあまり使わないのでは?という声も聞くのですが、実はこれには強い思いが有りまして、例えばカスタムメニューにはABCDと4つの切り替えができるのですが、そのABCDそれぞれで別々にファンクションボタンやプレビューボタン、AEロックボタンの用途が設定できるのです。カスタムAはそのまま、ブラケットボタン、プレビューボタン、AEロックボタンとして使用、カスタムBはFVロック、ライブビューボタン、AF-ONボタンと設定しておいた場合、カスタムメニューの切り替えひとつでD700の3つのボタンの意味が切り替わり、即座に違う撮影スタイルに入れるのです。」
それはかなり画期的かつ便利な機能ですね。
折井 「是非、上手にカスタマイズして撮影を楽しんでいただけたらと思っております。さらに、ファンクションボタンやプレビューボタン、AEロックボタンには[マイメニューのトップ項目先にジャンプ]と言う機能を割り付けることが出来るのですが、良く使うメニューが階層の深いところにある場合、この機能を使って登録していただければ一発で呼び出せます。繰り返し設定を行うフラッシュのコマンダーモードなどを登録していただくと、撮影時の手間が相当減らせると考えて作りました。これも是非使っていただきたい機能です。さらに、ライブビュー画像上に表示できる水準器表示も取り込み、好評いただいております。」
村上 「他には、感度や、ピクチャーコントロール、色空間、ノイズリダクションなどにこだわりを持つユーザーに対して、私達が使って欲しいと思った機能を情報表示画面からダイレクトに呼び出せるようにしています。」
ユーザーの視点で、心地の良い音や感触を追求
D700の開発では、音や感触といったカタログスペックに出てこない部分へも強くこだわっていると聞きました。具体的な内容を教えてください

- 2回目のタッグで息もぴったりの2人。見事なコンビ
ネーションで、斬新なアイディアを次々と実現した
村上 「カメラというのは写真を取る道具なので、音や感触は大変大事であると考えています。先ほども申しましたようにリズムよく撮影できるということ、さらに、撮影後になるべく早く振動や音を収束させ、キレを良くするということに気を使いました。D700のミラーバウンド収束時間は、秒5コマの仕様ではなく、バッテリーパックを付けたときの秒8コマの仕様を満足するように設計していますので、1コマ撮影のときでもキレの良さを体感していただけると思います。」
どのようにして音や振動を抑えたのでしょうか。
村上 「D3、D300のフラッグシップ機種と同様に、ミラーバランサーを採用しています。シャッターレリーズ後に降りてきたミラーをバランサーと呼ばれる慣性部材が受けとめ、衝撃を瞬時に吸収するという機構なのですが、ミラーの大きさによって、慣性部材の大きさ・質量を変える必要があります。当然、計算やシミュレーションを行って慣性部材の大きさを決めるのですが、最後の微調整は、高速ビデオでミラーの納まり具合をチェックしながら0.1mm単位で合わせ込むという職人技が必要になります。」
折井 「ミラーダウンすると、ファインダーから覗いている像が揺れますよね。その揺れを極力少なくして、ストレスを軽減するように気をつけました。あとはミラーの上げ方です。レリーズボタンを押してからなるべく早く上げないと、次の撮影準備ができません。本来ならば、モーターでミラーを上げ下げするのが機構的には簡単なのですが、モーターは回り始めるのに時間がかかってしまいます。なるべく早く次の撮影動作に入れるよう、ニコンの上位機種ではモーターではなくバネで上げるようにしています。」
それはどのカメラでもやっていることですか?
村上 「D3、D300クラスの機種でバネを採用しています。ニコンのカメラは、音や振動にすごく気を使って作っているんです。長年メカ設計に携わっていますので、試作のカメラに耳を当てると、どこのバネが鳴っているか、まだ振動が収まってないかといったことがだいたいわかりますね。」
設計した段階ではわからないのですか?
村上 「初期構想段階で、どんな音に仕上がるかというのはだいたいは想像がつきます。昔は作ってみないとわからなかったのですが、最近は3次元シミュレーションをコンピューターでできるようになりまして、その推測の確率もどんどん上がっています。ただし厳密には、実際に使ってみないと、思わぬところで音が出ている場合もありますので、試作品で最終調整をすることになります。」
最終段階で、変更等が出てくるということですね。

- ユーザーに気持ち良く使ってもらいたいという思い
が、最後まで妥協を許さない技術者としてのこだわ
りにつながっている
村上 「そうなんです。今回も、メインミラーが上がる時の音を小さくする方策を採ったところ、大きな音に隠れていたサブミラーの畳まれる音が聞こえるようになりまして。出荷ギリギリのタイミングで、その音を消す対策をどうしても入れたいと工場にお願いして、怒られたりしましたね。」
折井 「シミュレーションからはじまって、最後の試作品の確認までの段階で、気になるところは1つ1つ対策を取っています。発売ギリギリまで調整するという苦労があってこそ、自信を持って世に送り出せるのです。」
なるほど。では実際に市場に出た際の反応はいかがでしかたか?
折井 「知り合いの写真家からは、こういうのが欲しかったんだ、と言っていただきました。プロの方のあらゆる場面での使い方を想像しながら作ったので、苦労した甲斐がありましたね。」
今後はどのようなものを作っていきたいですか?
折井 「最近の技術としては、動画が気になりますね。次に村上さんとタッグを組む時に、カメラの動画機能がさらに一般的なものになっていれば、それに対する私達なりのアシスト機能を考えていきたいです。一眼レフカメラはコンパクトカメラに比べて被写界深度を浅く撮影できますので、上手く撮れれば業務用ビデオ並みにきれいに記録することも可能なはずです。技術者として、そこに大変興味がありますね。」
村上 「自分の中での課題はまだまだたくさんあります。特に、ユーザーに気持ち良く撮ってもらえるものを、ということはを日々考えています。道具としての一眼レフカメラの使いやすさをこれからも突き詰めて、スペックに表れない部分にもこだわっていきたいと思います。」
今回は、ありがとうございました。
