スピードライトの開発は、常に5年先の世界を想定する。
コマンダー側で、工夫されたところは?
松井 「コマンダー(SU-800)の前面パネルは、単なるデザイン上のものに思われがちですが、ここはワイヤレス制御の赤外線発光部なのです。ところが人の目には光っているように見えなくて、試作機での社内試用の際に資材管理シールを貼られてしまったのです(笑)。そこで、カバー部に凹凸を付けてステッカーなどを貼れないようにし、プリズム機能も持たせて赤外線がアタッチメントリングに向くようにしました。これは試作機を利用しないと気付かないところでしょう。」
陳 「コマンダーの表示部でも、『マクロ(比率表示)』と『コマンダー(EV表示)』の2通りの表示を選べるようにしてあります。表示している意味は同じなので、こんな仕組みは必要ないだろうとの意見もあったのですが、撮影現場では左右の発光量の比率で考えるというのが通例でした。また、リモート制御用に多くのスピードライトを連携させるときにも使いますから、その際は適正露出との差(EV)で示すほうがしっくりきます。おかげさまで、『写真教室の教材としても利用できる』とおっしゃっていただくこともあります。」
ユーザーの声で注目しているところ、気になる意見はありますか?
松井 「マーケティング部門やサービスセンター経由で同じようなお話を何人ものお客様からいただくことがあると、実際に撮影現場にいってお伺いすることもあります。撮影現場を知らないことには開発はできませんので。たとえ、ニコン製品を使っていただいていなくても、『どうしてニコンではないのでしょうか?』と訊ね、次には使っていただける製品を作りたいのです。」
陳 「開発時には発表後すぐに陳腐化しないように、常に5年先の世界を想定して必要な要件を取り込むというのが松井マネジャーの考え方です。毎年、新製品を出してもよいのですが、それよりも4~5年で更新したほうが、安心して使っていただけるということもあるでしょう。以前、新しいカメラへの対応などの事情で 2年未満で新機種に切り替えたことあったのですが、そのときはお客様から新機種登場が早すぎるというお叱りのご意見が寄せられた、と聞いたことがあります。」
デジタル全盛の時代で、5年というのは長いように思いますが?
松井 「はい、開発者にとって5年先はたいへん高い目標です。しかし、それによって現状の技術との間にギャップが生まれ、足りないものは何かという問題点が見えてきます。あとはそれを一つ一つ解決するだけですね。お客様のニーズに応えるのも大切ですが、私たちは新しい写真の撮り方を提案していきたいのです。そのためにも到達目標を高く設定しています。」
陳 「スピードライトの使用期間はお客様によってケースバイケースですが、デジタルカメラが全盛になってからは、写真を撮る枚数が急増してスピードライトの利用も多くなっています。パーツには、それぞれ耐用回数がありますが、よく利用されるお客様だと1年ぐらいで耐用回数に達してしまうこともあるでしょう。しかし、長く使っていただきたいという気持ちから、パーツ交換を伴う2~3回の修理ならば買い替えよりも安価に済むようにしています。」
松井 「スピードライトは、お客様に期待されている部分が大きいのでしょう。競合他社さんのカメラを使っているユーザーさんからも、ニコンのスピードライトが一番だとおっしゃっていただくことがあります。『なぜ、このカメラに着かないのか』と。新製品はスペックアップが当然ですが、他社さんとは、向いている方向が少し違うのかもしれませんね。私どもは、スピードライトの基本を常に考え、使われる方のことを考えて作っています。」
新しい可能性を秘めたR1C1、お客様が使い方を決めていく。

- 「写真は感性や芸術の世界ですから、使い方はお客様
次第で広がって いくでしょう。手に入れた方に、決して
後悔はさせません」と語る 松井(右)。
スピードライト開発に魅力を感じるところは?
松井 「自分自身も1ユーザーになるわけで、お客さまの気持ちと設計者の気持ちが同居しています。自分がこういったものを使いたいのだから、きっとお客様もそうに違いない、と考えるのが企画のきっかけです。それを実現する立場に居られるのが面白いですね。自分が欲しい、使いたい、と思える商品を企画する、これが設計の醍醐味なのです。ただ怖さも感じていますよ。新製品を出してから半年間ぐらいは不安で胃が痛くなります(笑)。」
陳 「設計をやっていていいのは『できないことは、ない』と考えられるところです。最初からうまくいくわけではありませんが、少しずつ目標に向かっていく過程が一番楽しいです。開発設計の最前線にいるのですから、常に負けてはならないという意志を持ってやっています。技術担当として、要求されるスペックとコスト面の問題から、よく松井マネジャーとは論争しますが(笑)、他の部門と協力しながら最終的に良いものを作るのが共通目的です。」
次に取り組む製品も見えてきているのでしょうか?
松井 「スピードライトスタンドでは、アタッチメントリングを三脚に固定するための雲台として使える形状にしたり、制御用の赤外線の反射率を考えて素材の色彩を決定したりと、細部まで徹底的にこだわって設計しています。また、拡散板や自立できるフレキシブルアームクリップの同梱、アタッチメントリングに最大8灯まで装着しての大光量を可能にした点など、アウトドア撮影にも使える仕様になっています。持ち運びが楽で電源装置やケーブルも不要ですから、フォトグラファーの可動性も増すでしょう。屋外のポートレート撮影などでも使っていただきたいのです。」
陳 「殆どの場合、一つの製品の開発・設計が完成した瞬間から、もう既にどう変えていくかを考えています。性能・価格・使い勝手などすべての面においてより多くのお客様にご満足いただける製品を作り続けたいですね。」
松井 「一方、ワイヤレスシステムとしては、もっと手軽に、軽くてコンパクトで日常使えるようなものにも取り組んでみたいですね。普通のお母さんが毎日のお弁当を撮影してブログにアップするとか、料理を写真に残しておきたいというときに、カメラ内蔵のスピードライトではなくて被写体の真横から光をあてられるようなもの。そうすると、写真が自然な感じになるのです。ライティングの楽しさ、写真の面白さがもっと広がるはずです、そこに私たちは関っていきたいのです。」
今回は、ありがとうございました。


