ザ・ワークス Vol.38 手ブレ補正(VR: Vibration Reduction)技術

レンズ一本ごとに行う細かな調整。補正機能を最大限に発揮させるために、細心の注意が払われる。

レンズ一本一本の特性にあわせ、
手ブレ補正機能のパラメーターにも
微調整が加えられる。

ニコンのVR機能は現在のところ全てレンズ搭載型になっていますが、これには何かこだわりはあるのでしょうか?

「レンズ搭載型とボディー内蔵型を比べた場合、一番大きな違いはファインダーでブレ補正の効果を確認できるかどうかです。一般的にボディー内蔵型の方式ではファインダーで防振効果を確認することができませんが、現在ニコンが採用しているレンズ搭載型では効果の確認が可能です。先ほども少しお話しさせていただきましたが、手ブレ補正というのは仕上がりの写真だけに効果が現れていれば良いだけではなく、撮影時に被写体を捉えやすくする役割も非常に大切だとニコンは考えています。300mmのレンズを構えていただくとおわかりいただけると思いますが、焦点距離の長いレンズで被写体を捉えるのは結構たいへんな作業です。そんな状況できちんとピントのあった写真を撮るためにも、また最適なシャッターチャンスを捉えるためにも、ファインダー内の防振を実現したいという思いから、レンズ搭載型を採用しているというわけです。」

撮影時の使い勝手の良さを大切にしているということですね。

「またニコンのVR機構は、実はレンズの機種ごとにパラメーターを変えています。望遠系のズームレンズとマイクロレンズでは、使われる撮影状況に差がありますよね。例えば、マイクロレンズでは花のクローズアップを撮るための中腰での撮影という使い方が想定される。フォトグラファーの意図を反映するための手ブレ補正という思想を実現するためにはこうした使用特性に応じた調整も欠かせないのですが、ボディー内蔵型ではそれも難しいですよね。」

確かに、様々な種類のレンズに対応しなければならないボディー内蔵型では、ある程度調整に普遍性を持たせる必要がありそうですね。

「さらに、ニコンのレンズというのは一本一本生産時に細かな調整がなされていますから、その時点で手ブレ補正機能に関してもレンズ個々の特性にあわせて最適なパラメーターを加えることが可能になります。防振の精度向上といった面からも、今のところレンズ搭載型に優位性があると感じます。」

機種ごとだけではなく、一本ごとにカスタマイズされるということですね。驚きました。

「その方がより高い性能を発揮できますからね。どんな開発においても机上の理論に頼ってしまうことは避け、フォトグラファーの気持ちを感じられる実写を大切にするようにしています。」

五年、十年先を見据えた技術開発。様々な方向性を視野に入れ、挑戦は続く。

デジタル撮影の特性を活かした手ブ
レ補正機能の開発にも取り組みた
いと意気込む臼井さん。

臼井さんは手ブレ補正という要素技術の開発を担当されて長いということですが、要素技術の開発と新製品の開発では何か違いはあるのでしょうか?

「要素技術の担当の場合、今ある技術を近々に発売される予定の新製品にどう組み込んでいくかという近い未来のための作業と同時に、その技術をどう発展させていくかという遠い将来を見据えた作業が必要になります。それが大変といえば大変なところです。現状に落ち着いていてはすぐ競合他社においていかれてしまいますから、常に新しいことに取り組んでいかなければなりません。できるだけ幅広く最新の技術情報を集めるといった努力も重要ですね。」

今後の進化の方向としてはどういったものが考えられますか?

「まずは、お求めやすい価格のレンズにもどんどん手ブレ補正機能を搭載していきたいですね。ほとんどのレンズにオートフォーカス機能が搭載される現在のような状況が、オートフォーカスが市場に出回り始めた当初には想像もつかなかったように、手ブレ補正ももっともっと一般的なものにしていきたいです。さらに、撮影者の意図をより反映できるようにセンシング機能を向上させていきたいという思いもあります。被写体ブレの補正にも取り組んでいきたいし、デジタル撮影ならではの特性を活かした手ブレ補正機能というのも今後の課題になってくるでしょうね。」

まだまだ進化が続きそうで、楽しみですね。 今日はありがとうございました。