操作性の向上をめざし、ボタンを大型化 大きく、見やすいファインダーを実現
ボタンの配置は、F5とほとんど変わらないのですか?
「基本的な操作系は変わりません。一眼レフの場合、ファインダーをのぞきながら操作をすることが多いので、できるだけ、見ないでも識別できる場所にあるのが好ましいと思っています。
ただ、F6では、ボタンを大きくするために、細かい設定をするようなボタンについては、上面から背面に場所を移して、上面を広く使えるようにしました」
ボタンが大型化しているのですか。
「はい。操作性の向上を狙ってのことです。とくに、グローブ(手袋)をしたときにも操作できるように、と考えました。
F6は、きわめて高い耐環境性能を誇りますので、寒冷地での撮影シーンを想定したわけです。
従来、F1桁のシリーズでは、不用意な操作を避けるために、ボタンは小さくし、ロックをかける方向にありました。しかし、F6では操作性を優先し、ボタンを大きく、ロックレスの方針としました」
ファインダーやAFについてはどうですか?

- どんな撮影状況のもとでも高精細でシャープな画像を
実現する、最新の11点測距AFシステムを採用。
「ファインダーの視野率は、もちろん100パーセントです。このなかで、どれだけ大きなファインダーを実現できるかに挑戦しました。とにかく、明るく、大きく、使いやすいファインダーがほしかったのです。
というのも、ニコンの一眼レフをお使いの方は、これまでご愛用いただいているレンズをお持ちの方も多いので、マニュアルフォーカスでもピントをつかみやすくする為に、見やすいファインダーを求めました。
F6では、屈折率の高い、高品質のガラスをペンタプリズムに使用して、ファインダー倍率を上げることに成功しました。開発者のあいだでも、“大きくて明るい。これこそが、カメラのファインダーだよねえ”という声が多く、非常に好評です。
AF機構にはマルチCAM2000を搭載。フォーカスエリアは11点になりました。D2Hにも搭載されている最新のAF機構で、フォーカスエリアの合焦スピードも、非常に速くなっています」
メカニカルな面での進化は?
「F5では、シャッタータイムラグの最短化を実現していますが、F6ではさらに、シャッターの切れ味、つまり、振動の低減や音質の改良にも注意をはらいました。そして、シャッターが開くまでの音と振動の低減に成功しています。
通常は、シャッターはボディにビスで固定するのですが、F6では、フローティングという機構を使用し、シャッターをゴムでつり下げて固定しています。そうすると、シャッターが開いたときに、ゴムで振動を吸収することができるのです」
振動がないと、どういう利点につながるのですか?
「カメラぶれの予防に効果的です。カメラぶれは、手ブレほど目立たないので普段は意識しないと思うのですが、シャッタースピードを長くするときなど、レリーズ時の振動を極力おさえる必要があります」
カメラの“切れ味”を演出する、地道な努力「耳をすまして、F6の作動音を聞いてください」
「振動の減少とともに、F6では、静音化にも非常に大きな努力をはらっています。撮影に集中するためにも、振動を減らすためにも、できるだけ無駄な音は消してしまおう、という方針です。
この方針はかなり徹底して取り組み、撮影者にしか聞こえないような作動音まで可能な限り消す努力をしました。
カメラの音というと、モーターの音が大きいのですが、実はそれ以外にもさまざまな内部機構の音が聞こえるのです」
そうなのですか。どうやって音を消すのですか?
「部品によっていろいろですが、シーリングをして完全に部品を囲ってしまったり、緩衝剤を入れて音を止めたり……。そういった措置をいたるところにほどこして、音と振動を防いでいます」
シーリングをするというと、内部機構にも色々と影響しそうですね。 小型化と合わせてかなり苦労したのでは?
「そうですね。構造というよりは、素材をかなり見直しましたね。
同じ強度でも、できるだけ薄く作れるものを選びました。だから、かなりの量の素材をテストしてみましたよ。カメラに使うような素材じゃないものまで、いいと言われるものは、なんでも試しました」
カメラに使わない素材、というと?
「たとえば、洗濯機に使う防音材をつかってみました(笑)。しかし実際に使ってみたら、あまり効果はありませんでした。音のレベルが違うんでしょうねえ。
また、どうしても防げない音などは、不快な音にならないように、その音質を改善しています。
耳をすまして、ぜひ一度F6の作動音を聞いてみてください。かすかに聞こえる音が、ほかのカメラとは違った音がしますよ」
音質も改善ですか、すごいですね。その他に特別にこだわった点はありますか?

- 高い信頼性と耐久性を誇る精密シャッターユニットも、
F6の切れ味に貢献した重要要素の一つ。
「これは、F6だけに限らず、F1桁シリーズすべてに言えることなのですが、シャッターボタンは、かなり意識して作っています。
シャッターは寸法だけで設計するのではなく、やはり最終的には“手の感触”で調整しています。つまり、どこで半押しになって、どこでレリーズになるという寸法上の規格はあるのですが、そうして作っても実際に触るとF5と感触が違ったりします。そこで、厳密に寸法を計ってみると、数十マイクロメートル規格からズレているのです」
開発者の感覚はさすがに繊細ですね!
「ですので、その数十マイクロメートルを合わせこまなくてはなりません。
基本的には、F1桁シリーズは、シャッターが浅いのが特徴なのですが、その調整は非常に丹念にやっています。
撮影時、特にシャッターを切る瞬間というは神経を集中しますよね。だからこそ、指先に感じるシャッターの微妙な感覚にはとても敏感ですし、そこをおろそかには出来ません。
また、シャッターの素材は新たに開発しています。シャッター膜の材質から新しくし、耐久性能も大幅に伸ばし、信頼性、耐久性ともに、ニコンでもっとも厳しい規格を適用しています」
スペックだけでは分からない、F6の神髄「使うことで、進化を実感できるカメラです」
切れ味、実用性を重視した、F6の横顔が見えてきました。F6が完成して、どんな感想を持ちましたか?
「そうですね。開発期間が長かったですし、嫌になるほどいじくりまわしてましたので、完成したときには見慣れちゃいましたけどね(笑)。外観も、一見コンサバティブでしょう」
F5に比べると、スタンダードな形ですよね。
「F6は、新奇さや、いたずらに性能を追いかけたカメラではありません。F5の性能を維持、高めながらも、実用性を第一に、とても丁寧に作ったという自負はあります。
そもそも、F6が、F5をどのように超えるかということは、いくつかの方向性が考えられていました。たとえば、F5で、最高8コマ/秒の撮影を実現していますから、これを、10コマまで持っていこうとか」
スピードでF5を上回る、という方向ですか。

- 「ニコンFの伝統を受け継ぐF6の
究極の切れ味を、ぜひ手に取って
試してほしい」と語る池野設計者。
「はい。しかし、それはいい方向性じゃないんだろうなあ、と思っていました。
果たして、秒8コマが10コマになって、フィルムカメラの活用の幅が広がるでしょうか? カメラは、まず第一に実用品です。“性能はすごいけど、大きい、使いづらい”では、買っていただいても、しまい込まれるだけでしょう。
それならば、F6は、高性能・高速を、もっと実用的に開発したかった。『小さくて、身の詰まったカメラ』を世に送り出すことのほうが大切だと考えていました。
実のところ、報道関係フォトグラファーの方の多くがデジタルカメラに移行していますし、“8コマ/秒のコマ速も必要ない”という意見もありました。しかし、それは、“秒8コマ撮れる”という余裕をもつために、あえて維持しました」
その余裕も、カメラの“切れ味”のひとつですよね。
「はい。一見、コンサバな雰囲気のカメラですが、その実用性と機動力、そして“切れ味”でF5を超えたと、開発者一同、自負しています」
最後に、お客様へのメッセージをお願いします。
「お客様にはぜひ、F6を手にとって、ファインダーをのぞいていただきたいですね。そして、実際にレリーズしてもらいたいです。とにかく“作り”では最高峰を達成したカメラだと自負しています。スペック表を見ただけでは、F6の実力や良さは十分に伝わらないと思うのです。
とくに、デジタルを使い慣れている方は、ぜひファインダーをのぞいてください。ファインダーの大きさだけでも、新鮮に感じられると思いますよ」
