talk! talk! talk! NPO法人クローバーリーフ理事・酒井貴子さん


バックナンバー

子ども目線でストレートに表現された写真 「毎回その感性に驚かされています」

あんなに小さいのに、子どもたちは命と向き合って生きているんですね。だから洞察力や観察力がすぐれているし、哲学的な考えも深いものを持っているように思うんです。大人が気づかないようなことをふっと言ってみたり、写真にそれを表現してみたり、毎回行くたびに彼らの深さに驚かされてしまいます。
また、深いと同時にとても優しいと感じました。友だちや自分たちをケアしてくれる人たち、ご家族を思いやる気持ちを持っている。私は子どもたちから教わることがあるし、毎回新しい発見もあって、ワークショップ行くたびにうれしい、楽しい時間を過ごさせてもらっています。「元気をあげたい、癒してあげたい」なんて思っていたけれど、反対に実は私も子どもたちから元気をもらっているみたいなんですよ。

子どもたちはどんな写真を撮るんですか?

院内学級、中学生の男の子が撮影した「TIME」
院内学級、中学生の男の子が撮影した「TIME」
院内学級、中学生の男の子が撮影した「TIME」
院内学級、中学生の男の子が撮影した「TIME」

印象に残っているのは退院前の女の子が青空に浮かぶ雲ばかりを十数枚撮っていたこと。すごく開放的な気持ちが表れている写真だと思いました。あとは冬に行ったワークショップで、中学生の男の子が葉がいっぱい茂った木と少し葉が落ちた木、全て葉が落ちてしまった木を撮ってきたんです。その写真でスクラップブッキングしたとき、彼はその3枚の写真を並べてコメントは何もつけず、ただ「TIME」というタイトルをつけたんです。まだ中学になったばかりの子が、時の流れと命の変遷というものをこんな風にとらえているのかとすごく驚かされました。とにかく毎回、その感性に驚かされるような素晴らしい写真を撮ってくるんですよ。

たしかに、このアメの袋に描かれたキャラクターの写真など、大人ではまず撮ろうと思わない、大人では撮ることができない感性の写真ですね。

キャラクターを画面いっぱいに大きく入れ、構図を工夫している様子がわかる
キャラクターを画面いっぱいに大きく入れ、
構図を工夫している様子がわかる

本当にそうですよね。病院には子どもが好きなものが置いてある売店があって、そこにある雑誌の表紙を撮ったりおかしを撮ったりするんです。前にある子どもがリスの写真を撮ってきたことがあって、みんなで「病院にリスがいたの?」ってすごく驚いたんですが、「これはカレンダーのリスを撮ったの」って(笑)。写真を写真に撮ってきたんですね。子どもたちの写真はかっこよく撮ろうなんてあまり考えず、好きなものをストレートにポンと撮ってくるので面白いんですよ。でも、撮ったものを消去したり、何度も撮りなおしたりもしているので、どういう風に撮ろうかというのは子どもなりにしっかり考えているようです。写真でしっかり自己表現しているんですね。

ワークショップを通して、子どもたちの反応はいかがですか?

毎回とっても楽しみにしてくれています。以前、ある子は脳の障害のために体が思うように動かせず、気持ちも沈んで、院内学級にも来られなくなってしまったんです。でもこのワークショップに誘ったら参加してくれて、よほど写真を撮るのが楽しかったり、褒められたりしてうれしかったんでしょうね、このワークショップには毎回参加してくれました。そのうちに、最初は震えて思うように動かせなかった指もうまく使って写真を撮れるようになり、毎回撮った写真を長い時間かけて一生懸命切り貼りして作品を仕上げていました。これほどまで一つのことに打ち込んでいる姿を見てご両親もとても喜んでくれて、その子は早速デジタルカメラを買ってもらい、私たちがいないときにでも自分で写真を楽しむようになったようです。
またある子は、一時は治療もままならないほど不安定であった精神状態が、私たちのワークショップで写真を撮るにつれてだんだんと落ち着いてきて明るくなり、その変化には治療を担当していたお医者様もとても驚かれていました。その子が友達と撮り合った写真にはすごく楽しそうにしている彼女が写っていて、院内学級の先生も「こんなにいい顔をしているのは見たことがないですよ」と言われたくらいです。

写真の力を感じるエピソードですね。

私も日々写真の力を実感します。写真を撮ることは前頭葉を刺激して脳の活性化につながったり、自分の好きな写真を見ることでリラックスしてストレスが低減する、というのが医学的にも認められているそうです。構図を頭で考えて撮って、見て感動して、写真を楽しむことで心のリハビリになるし同時に脳のリハビリにもなる。そしてコミュニケーションのツールにもなるんですね。

撮ってもらうことで得られる癒し 思い出の写真を見て得られる癒し

NPO法人クローバーリーフ理事・酒井貴子さん

その他にも、フォトハイクという活動を行っているそうですね?

はい。小さなお子さんのいるご家族みんなで、自然の中で写真を楽しみましょうという活動です。小さな子がいるとなかなか外に出る機会も少なくなると思うんですが、こうして親子で楽しめる機会を与えることで、写真を通して家族みんなでの楽しい思い出を使ってもらいたいというのをひとつの目的にしています。そして、小さな子どもでも、自分で被写体を探して撮って、ちゃんと写真を楽しめるんだということをご両親に知ってもらいたいと思っているんです。子どもだからまだ無理、ではなく、子どもは子どもなりの感性や表現方法があって、きちんと表現する機会を与えてあげることが大切だということに気づいてもらえたらと思うんです。事実、最年少では2歳弱の子が4歳のお兄ちゃんと一緒に写真を撮って楽しんでいるんですよ!

シャッターを押すだけという単純な作業だからこそ可能なことなのでしょう。カメラは子どもの感性を育てるのにも適したツールなのですね。

昨年の7月からは、NTT東日本関東病院の緩和ケア病棟で患者さんの写真を撮って差し上げるという活動もしています。これは患者さんが撮られる側になることで癒されることを目的としているんです。緩和ケア病棟は現代医学では治癒が困難な方の体と心の様々な苦痛を和らげ、ご家族とともにより豊かな時間をお過ごしいただけるよう支援をするための専門病棟なんですが、そこに入院されている方のポートレートや家族写真を撮って、ペーパーフレームなどに入れて差し上げています。たとえば女性の方だと、どんな時でも綺麗でいたい気持ちってありますよね。現在メイクセラピストの方と一緒に活動しているのですが、プロの方に綺麗にメイクをしてもらって時にはドレスアップして、美しい自分を写真に残しておけるということでご本人、ご家族にとても喜ばれています。いい表情をした写真を見ていると、「いい自分」のイメージが自分の中に入ってきて癒しにもなるようです。

撮ってもらって癒されるという力もあるのですね。

また、ある患者さんは登山が好きで昔はいろいろなところに行っていたそうなんです。ある日、病院の中庭に元気な頃に登った山の登山口あたりに咲いていた花や木があることに気づいて、自分の命の続く限りそれらの姿を撮ってゆきたいと私に言うんです。それで私は一緒に撮りに行く約束をして、訪問させていただくたびに中庭の植物の写真を一緒に撮りました。最後はカメラを構えるのも辛いということで、私が患者さんの目になって手になって、こう撮って、ああ撮ってという指示をもらってシャッターを押しました。プリントしてもっていくと毎回とても喜んでくださって……写真を見ながら、登山の思い出を楽しそうに話してくださいました。

昔の写真を見て懐かしむこともありますが、その患者さんの場合は思い出を呼び起こすものの写真を撮って昔の記憶をたどっている。

患者さんたちは自分の写真を飾って先生方にいろいろなお話をされているそうです。ライフレビュー(昔を振り返り、起こったことやそのときの心情を話すことで元気になったり癒されたりすること)になっているんですね。撮られた1枚の写真の中にはそれぞれの方の人生、生き方、いろいろなものが凝縮されているんです。
つくづく、写真というのは不思議なものだと思います。写っているのはその瞬間見たものなんですが、撮ったときの自分、今見ている自分、そこにはいろいろな気持ちが詰まっているんですね。これが写真の持つ力だと思います。

元気を与えるつもりが与えられ…… 「今でも写真に支えられているんです」

院内学級のワークショップで、入院している友だちを撮影した1枚
院内学級のワークショップで、
入院している友だちを撮影した1枚

撮った人にとっても、撮られた人にとっても、その写真がその方の自信や自慢になっているような気がします。それが元気につながっているのではないでしょうか。

そう、まさにそうだと思います。写真はすごく敷居の低い、子どもにもチャレンジドにもできる創作活動なんです。気楽にできるけれど奥が深い、そういう部分がやる気や自信になるんだと思います。
デジタルカメラが出来てからは、操作がどんどん簡単になりボディも軽くなって、本当に誰でも楽しめるものになりましたよね。後ろにモニター画面がついているからファインダーを覗かなくてもいい。そうすると、たとえば寝たきりの方でも指だけ動かせば撮れるんですよ。院内学級でのワークショップも、デジタルカメラだからこそできたんだと思います。

すぐにプリントアウトもできますし。

そうなんですよね。その場で撮ったものがすぐ写真になることが子どもたちの興味をより惹きつけていると思います。それに1ヵ月後の次回ワークショップになってやっと写真が出来上がってくる、なんていうのでは感動も薄れてしまいますから。

今後の目標や展望などありましたら教えてください。

本格的に活動を始めて1年ちょっとなので、今はまだ試行錯誤、写真で何ができるのかを模索しているところです。でも、写真が脳を活性化させるいいツールになるということを実感できたことで、将来的にはたとえば痴呆の予防や改善、神経難病や高次脳機能障害の方のリハビリなどにも活用することができないかと思っています。
それから私は小学校で英語も教えているんですが、普通に学校に通っている子どもたちも色々な問題を抱えているように見えます。学級崩壊までいかなくても、クラスがまとまりを持たず先生が大変苦労されている様子を見ていると、子どもたちが思うように、うまく自己表現できていないのかなと思うんです。その心の叫びのようなものを写真で表現させてあげることのできるワークショップをやりたいですね。そしてこれからも、1人でも多くの病気や障害をもっている方々に写真を楽しんでもらえるような活動を続けていきたいと思います。

では最後に、これまでの活動を通して、酒井さんが1番強く感じたことを教えてください。

うーん、そうですね……感じた事はたくさんあるんですが、そのなかでも1番感じたことは「写真の力って本当にすごいな」ということですね。写真は誰もがこんなにも気軽に楽しめるものでありながら、人を元気にしたり、癒しを与えるためのツールという新しい使い方ができるものなんだと実感しています。また、院内学級のワークショップを通して、初めはこちらが元気をあげようと思っていたのに、反対に私が元気をもらったりたくさんのことを教えられたりしているんです。さらに活動を通していろいろな人に助けていただいたり、いいご縁がつながっていったりしていて。ほんと、私は写真に今でも支えられているし、写真にいろいろな贈り物をもらっているんだなと思います。