talk! talk! talk! 「たったひとつのたからもの」著者・加藤浩美さん


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多くの人に見てもらいたかった、伝えたかった “たったひとつのたからもの”

「たったひとつのたからもの」。抱き締めているご本人も意識しないほどほんの一瞬何気なくぎゅっとしたところを撮ったのだそう。「子供に親がすがっているみたい(笑)」と加藤さん
「たったひとつのたからもの」。抱き締めているご本人も
意識しないほどほんの一瞬何気なくぎゅっとしたところを
撮ったのだそう。「子供に親がすがっているみたい(笑)」
と加藤さん
上の写真を撮った特別大切だというカメラがこのF4。ボディに写真を撮った日付けが入っている。後に写っているのは「主人にないしょで買ってしまいました!」という、最近愛用機に加わったF6
上の写真を撮った特別大切だというカメラがこのF4。
ボディに写真を撮った日付けが入っている。
後に写っているのは「主人にないしょで買って
しまいました!」という、最近愛用機に加わったF6

明治生命のフォトコンテストに写真を応募されたのはいつ頃ですか?

秋雪が1999年の1月に亡くなって、翌年の2月ぐらいだったと思います。それで3月に入賞の内定をいただいたんです。

この写真のタイトル「たったひとつのたからもの」はどのような意図でつけられたのですか?

「たからもの」という言葉は最初から使いたいと思っていたのですが、その言葉に何をつけるとすんなりと自分の思いが伝わるのかなと思ったとき、このタイトルになったんです。
3人が今ここにいるという現実をタイトルにしたかったんです。写真を見て、秋雪がたったひとつの宝物なんだという解釈をされる方もいらっしゃるのですが、私としては、写っている2人と写している自分、そして3人でいる時間すべてが宝物だということを言いたかったんです。タイトルとしては強すぎるかな、ちょっと仰々しいかなという気もしたんですが、でも、最終的にはもうこれしかないと思いました。

そもそもフォトコンテストに応募しようと思ったのはなぜですか?

あの当時は秋雪のことを、秋雪の写真をいろいろな人に見てもらいたいという思いがあったんです。正直に言うと、入賞したらCMに使われるというのを聞いて応募したんです。運が良ければCMを通して多くの人に見てもらえるかもしれないと思いました。

実際にCMとして放送されていかがでしたか?

最初のCMで映ったのは30秒のうちのたった2秒なんですよ。ほんの一瞬です。でも、そのほんの一瞬を見て明治生命に感想をメールで送ってくれた方が1人、2人いたんです。放送直後だったと思います。感想を持つことはあっても、わざわざメールでそれを送ってくれるというのはなかなか労力のいることですよね。でもその方たちはそうやって意見を言ってくれた、それが凄く嬉しかったんです。1人でも2人でもあの写真を見て何かを感じてくれたんだと思ったら、ちょっとでも何か伝わったのかなと思ったら、それは本当に嬉しかったですね。

その後、ロングバージョンのCMになり、秋雪くんとの日々が本にもなりました。これだけ反響があったのも、多くの人が加藤さんの写真を見て何かを感じ取ったからではないでしょうか。

本に関しては自分の中で、撮った写真と書きとめていたものを文章にまとめることができ、本として形に残せたという達成感だけだったんです。でも本当に多くの方から反響をいただいて、私のところにも、写真に勇気づけられたとか感動したとか、そういった意見をたくさんいただいたんです。秋雪のことも本当にかわいい、かわいいって言ってくださる。逆にどうしてそこまで言ってくれるんだろうという不思議な気持ちになりました。

それだけ、この写真の訴える力が大きかったのではないでしょうか。写真の持つ力の大きさをあらためて実感しました。

ありがとうございます。そう言っていただけると本当にうれしいです。つくづく写真を撮るのが好きでよかったなと思います。これを趣味にできて本当によかった。そう考えると、なんであのとき写真部に入ったのかますますわかりません(笑)。でも、きっかけってそんなものなのかもしれませんね。

カメラを手放そうと思ったとき 秋雪が私を助けてくれた

いずみの学園で先生と遊んでいる様子。この頃には思う存分遊べるようになり、秋雪くんも学園に行くのが大好きだった
いずみの学園で先生と遊んでいる様子。
この頃には思う存分遊べるようになり、
秋雪くんも学園に行くのが大好きだった
ポカポカの部屋で、ついゴロゴロ、うとうと……
ポカポカの部屋で、ついゴロゴロ、うとうと……

現在はボランティアで写真を撮っているそうですね。

はい。秋雪が通っていたいずみの学園という所で、お誕生会などの学園の行事、それから普段の様子も撮りに行ったりしているんですよ。これはもう6年続けています。

ボランティアに行くことになったのは何かきっかけがあったのですか?

秋雪が亡くなって2、3ヶ月した頃だったでしょうか、学園の先生方とお母さん方がやりませんかというお話を持ってきてくれたんです。これは後日談なんですが、放っておいたら危ない、私がそんな風に見えたんだそうです。たしかに自分でもその頃どんなふうに過ごしていたのか、正直あまり覚えていないんです。それで、これは何とかしなければいけないということで話合ってくださって、写真が好きみたいだというのは薄々バレていましたから、もし無理でなければ来てくれませんかと声をかけていただいたんです。

好きなことで元気を取り戻してもらおうと。

はい。正直に言うと、実はそのときにカメラを手放そう、写真を撮るのはもう止めようと思っていたんです。あれだけ秋雪を撮っていたのに、それがいきなりいなくなったということは、私にとってはもう撮る対象がなくなってしまったということです。写真を撮るのもカメラを見るのももう辛かったんです。1番楽しい趣味だったはずのものができなくなってしまった、それどころが、もうやりたくないと思ってしまった。だからもう手放すしかないなと考えていました。
ところがそのお話をいただいたとき、本当に不思議なんですが即答していたんですよ。「じゃあ、やらせていただきます」と。おかしいですよね、捨てようと思っていたのに躊躇なく返事をして。そのときにはもう、気持ちは学園に向かっていました。

本能のようなもので、写真を撮るべきだと感じたんでしょうか。

そうかもしれません。やっぱり止められなかったということですよね。
タイミングも良かったんです。声をかけてくれた時期が、あれより前でも後でも引き受けたかどうだかわかりません。秋雪はその春から小学校に上がることになっていましたので、もし生きていてもいずみの学園にはもういない。だから学園に行っても不思議と辛くはありませんでした。生きていれば今頃ここに居たのにと思ってしまったら辛くて行くことができなかったでしょう。そういう意味でも……親バカかもしれませんが、秋雪が助けてくれたのかなと思うんですよ。もしかしたらあの子がカメラを止めるなって言ってくれたのかなって思うんです。

また趣味を始めるというのは、元の日常生活に戻っていくんだという意志でもありますね。

そういう意味合いは大きいですよね。今の現実をちゃんと見なくちゃというメッセージみたいなものも受け取ったのかもしれません。今あらためてそう実感しています。

いずみの学園での撮影はいかがですか?

本当に楽しいですよ。たぶん、子供達が普段家で見せる顔といずみの学園で見せる顔って違うんですよ。私はお父さんお母さんが見られないお子さんの顔を見ることができるんです。子供が社会に出ているとき、小さな小さな社会ですが、普段とは違うこんな表情をしていますよというのを見せてあげられるというのがね、おもしろいといいますか、撮っている甲斐があります。「家ではこんな顔をしたことないわ」ってお父さんお母さんに言われると「よっしゃ!」っていう気分になりますね(笑)。

「秋雪の写真に勇気や元気をもらえる そう思えることがとても幸せだと思います」

母と息子で出かけるのが夢だったという加藤さん。夢が叶い、初めて2人きりで行った海で撮影した思い出深い1枚
母と息子で出かけるのが夢だった
という加藤さん。
夢が叶い、初めて2人きりで
行った海で撮影した思い出深い1枚
「たったひとつのたからもの」著者・加藤浩美さん

秋雪くんを撮り続けて膨大な枚数の写真を残されたこと、振り返ってみて今どう感じていますか?

病気を持って生まれてから寿命をまっとうする間の記録といったらその通りなんですが、それだけではないんですよね。体が辛かったこと、しんどいけれどいろいろな訓練をがんばったこと、必死なことはたくさんありましたが、ちゃんと楽しいこともたくさんあって、それを楽しいと感じていた秋雪がいたんです。そういう秋雪を写真として残せたことが、本当によかったなと思っています。

写真を見れば、その表情だけでなく撮ったそのときの思い出も一緒に蘇ることもありますね。

そうそう、そうなんですよね。写真を撮ったときの物語が自分の中に残っていて思い出させてくれるんです。その背景にあるいろいろなこと、がんばったこと辛かったこと、もちろん幸せだったこと楽しかったことも。6年間、3人で過ごした大切な時間を、写真を通して思い出せるということが私には本当に救いなんです。だから写真がもしなかったらどうなっていたでしょう。たぶん辛過ぎたでしょうね。

逆に、写真を見ると思い出してしまって辛いということはなかったのですか?

それは全くありません。辛いというよりは逆に、自分が写真を見るたびに勇気をもらえる、元気をもらえるんです。今になってもそんな風に、あの頃撮った写真でそんな風に感じられるということは本当に幸せだなと思います。

今後も写真は趣味として撮られていくんですね。

もちろんです。いずみの学園にも来るなと言われるまで撮り続けたいと思っています(笑)。いずみの学園には3歳から小学校に上がるまでの子供がいるんですが、4月からはもう少し小さいお子さんを預かっている関連の親子教室でも撮らせてもらえることになったんですよ。個人的な趣味に置き換えるのはなんですが、でも、また楽しみがひとつ増えました。
いつか、秋雪の名前の通り、秋に降る雪も撮ってみたいです。真っ赤な紅葉に降る雪を想像すると凄くワクワクします。それから、秋雪と一緒に行ったところで、もう秋雪はいないけれどそこに秋雪がいるような、そんな雰囲気のある写真を撮ってみたいですね。秋雪と一緒に来た場所なので私はそれを感じることができると思うのですが、自分以外の人にも秋雪を感じてもらえるようなものが撮れたらうれしいですね。

では最後に、カメラとは、写真とはどのような存在ですか?

大事だったり大好きだったり幸せを感じるものを形にして残せるものですね。そして、大事なものを形に残す方法としては、写真がいいと思っています。写真で残したいし表現したいです。
私は、家族、友達、出会った人や物だけではなくて、自然だったり、目の中に入ってくる心地いいもの、そういうものもちゃんと形に残したいんです。写真を使えばそれができる。思い出は残そうと思えばちゃんと残っていくんです。残せるんですよ。