あらゆる生物の祖先である海の生き物 その生きざまから学ぶことは多い

- オオイソバナとネンブツダイ(沖縄)
海の一番の魅力とはどこですか?
謎が多いところでしょうね。人間の解釈や知恵、科学を持ってしても最後まで解明できないことが多々あるでしょう? 結局、海というのは陸と別世界、海の生き物は別世界の住人なんですよ。だって台風が来ても地震が来ても、そこでどんなに大変な被害があったとしてもへっちゃらなんですよ。翌日にはひっくり返った岩の下で平気で遊んでますからね。人間だったらそこから復興するのにかなりの時間が必要ですから、海の生き物たちはかなりしたたかだと思いますね。
僕はそんな生き物たちと向き合って写真を撮っているわけだから、相手に不足はないかなという感じですね。
やはり簡単には撮影させてくれないのですか?
人間を撮るよりも難しいですよ。言うこと聞いてくれないし、野生の生き物ですから絶対に慣れてくれません。
海の生き物たちは人間を理解しているのでしょうか?
理解しているでしょうね。人間をバカにしてますから(笑)。
たとえば2~3cmの魚が家族を守るために僕らに噛みついてくるんですよ。人間でいうと象に向かっていくようなものですから、相当な勇気を持っていると思うでしょう? 人間から見ればそれは死を覚悟した行為に見えるんだけども、実は魚にとってはそうじゃないんです。人間が恐くないんです。「おまえなんかあっちいけ!」って感じなんですよね。「人間なんかに捕まるわけがない」って、それぐらいの自信を持って向かってくるんです。人間を全然相手にしていませんよ。
では、からかわれて悔しい思いをしたり、ということもあるのですか?
それは多々あるけれど、逆に生き物たちの生態、生きざまから学ぶことが多いですね。
海の生き物たちは僕たちの祖先ですからね、人間よりもはるかに進んでいるんですよ。それに、生まれた瞬間に食べられてしまうかもしれない、という過酷な世界を生きているんです。かわいそうとか、変な同情心を持つことが返って命取りになる。人間の観点なんて無意味なんです。そう考えると、僕は大変な世界を撮っているんだなと思いますね。
人間をバカにするのも納得、という感じですね。
そう、人間をなめているところがいいんですよ。
『好きな海で仕事をしているのだから』 汚染される海の現状を伝えなければいけない
今、世界中で環境破壊が進んでいますね。
ええ、かなり深刻だと思います。今、まともな海はほとんどなくなってしまったのではないでしょうか。
たとえば、温暖化で徐々に珊瑚が減ってしまっているとも聞きましたが。
徐々に、なんてものではないですよ。世界中でどんどん減っています。2~30年後には半分以上の珊瑚がなくなるのだろうと言われています。
珊瑚は森林以上に二酸化炭素を吸収して膨大な酸素を放出しているんです。その珊瑚がなくなってしまっては、地球がオーバーヒートしてしまって機能しなくなるでしょうね。南極の氷もどんどん溶けるし干ばつも起こる。たとえ森林があっても、珊瑚がなくなってしまうと地球は150年ほどしか生きられないと言われているんですよ。
まだ国ものんきに構えているふしがありますが、本当に一刻の有余もない状態ですよ。マスコミもまるでファッションのように環境問題を扱っていますが、安易ですよね。もっと深く時間をかけて取材をして、真剣に取り上げていかなければ意味がないと思います。
中村さんは東京湾をはじめ、沖縄の白保、諫早湾など環境問題に直面している海も撮影されていますよね。
そうですね。潜っていると、人間による環境汚染によって生き物たちが病んできているのを目の当たりにするんです。こんな海底まで破壊が進んでいるということは、それだけ陸地の乱開発が進んでいるということなんだと思うんです。その状況を見ていますから、僕もただ美しい海を撮っていくというよりも、やはりそういった社会的なテーマを取り上げて、みなさんに海の現状を伝えていかなければいけないと思っているんです。
今後も、そういった問題に取り組まれていくのですか?
はい。海がどれだけ病んでいるのかを、何回口で言っても分かってもらえませんしね。せっかく好きな海で仕事をさせてもらっているんですから、写真などを通してそれを伝えることも使命なのではと思います
美しい世界に繰り広げられる ドラマを撮っていきたい

- 砂紋のある風景(フィリピン南シナ海)
海を撮るときに、気をつけていることはありますか?
“ただ撮っただけ”にはしたくありませんね。
海の中というのは、潜水の技術的なことさえきちんとおさえてしまえば、写真を撮るのは楽な世界だなぁと思うんです。なぜかと言うと、海は姿形、色彩、すべてにおいて完璧な造形物なんですよ。だからその造形物を撮っただけで立派な作品になってしまうかなと。
確かに中村さんの写真を拝見して、海の生物がこんなにも鮮やかで多種多様なものなのかと驚きました。
こんなに派手で本人はよく恥ずかしくないな、と思うほどですよね。どんなデザイナーががんばっても出せないようなグラデーションだったり、「どうしてこんなふうになるの?」っていう形をした生き物がいる。真っ赤な珊瑚の上に黄色いシダがポンと、一輪の花のようにつかまっている風景がそこにあるんです。よくこんなところに、こんなものがあったな、と思うことは多いですよ。海の中にいると、やっぱりこういうものは神が作ったのかなぁって感じますね。
僕らはただそれを見て撮っているだけなんです。ですが、やはりそこからもうひとつ進んで撮りたいんです。
もうひとつというのは?
人間の感性を刺激するようなものを撮っていきたいです。食うか食われるかの世界だったり、生き物の意表をつかれるような行動だったり、きれいな中にもドラマ性が欲しいですね。それがないとただ、「ああ、きれいね」で終わってしまうんです。
それに、初めは「きれいね」でいいかもしれませんが、ただ鮮やかで美しいだけでは飽きられてしまうんです。やはり写真家としては、飽きられないものを撮っていかなくてはならないと思います。
では最後に、これから撮ってみたい海はありますか?
これから……特にないですね。うん、僕はどこでもいいんです。どんな海にも生き物はいますから。
では、追い続けていきたい生き物は?
あー、それもいっぱいいますね。
それに今は海だけじゃなく人もよく撮っているんですよ。おじちゃんとかおばちゃんとか、街角のカップルとかね。僕が水中を始めた頃は写真家の多くは陸上で撮影していたけれど、そういう人たちが今は水中写真を撮り始めている。僕は進化の過程みたいに海からだんだんと陸に上がってきているんです(笑)。
では、これからもいろいろな所に行っていろいろな人や生き物に出会って、たくさんの写真を撮っていきたいという感じでしょうか。
そうそう、そのとおりですね!
今後もなかなか見ることのできない海の世界を、写真を通して私たちに見せてください。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。


