talk! talk! talk! 漫画家・新谷かおるさん


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漫画の資料写真は必要不可欠 「自分で撮影した写真を使って描くのが一番です」

先生は漫画の取材に行くときには、カメラを持っていかれるのですか?

はい、必ず持っていきます。撮影した写真を見ながら漫画を描きますから。だから、僕にとっての写真とは、漫画の資料という位置付けが大きいですね。海外旅行に行っても、現地のポストだとか車だとか、普通の人から見たら、なんてつまらないものを撮っているんだろうと思われるようなものばかり写していますよ。
 パリの話を描こうと思ったとき、たとえばエッフェル塔なら他の人が撮った写真がいくらでもありますから、それを参考にすることができます。でも、男が靴音を響かせて走ってくるシーンを、その男の足元のアップで描こうと思ったら、どうしてもそのコマに描き込むパリのマンホールが必要になるんです。だから僕はマンホールの写真を10枚も20枚も撮影するんです。

Photo(撮影・新谷かおる氏)
イスラエル旅行の際に撮影された写真。「漫画に使うかどうかは別として、どこに行ってもその国のバスやパトカーなどは撮っておきたい」と先生。
Photo(撮影・新谷かおる氏)
エルサレムの街の中。エルサレムにどのような家が並んでいるかを記録するために撮影された。

マンホールひとつにも、資料写真は必要なのですね。

これも、いかにリアルに見せるかということにつながると思うんです。漫画というのは絵空ごとですから、極端に言えば資料がなくても、全て想像で描いてもいいんですよ。王子様やお姫様、宇宙人だって出てくる世界ですからね。でもそれではダメなんです。それをやってしまうと完全に嘘っぽい話になってしまうんです。嘘っぽいと感じると、読者が読んでいて違和感を感じてしまう、そこでストーリーがストップしてしまう、そうするとこの漫画はもう負けなんです。フィクションのストーリーを、あたかも現実にあるかのように見せることが大事なんです。

先生の作品は、ストーリーのリアリティもさることながら、そのスケールの大きさに魅力を感じます。

ストーリーには面白さが必要ですから、あきらかにありえないことを描かなければダメなんですね。町工場からヒョコっと出てきた車乗りが、ル・マン24時間(※注3)で勝てるわけがないんですよ。でもそれが漫画ですからね。99の嘘を描いても、最後の1の真実ですべてを本当に見せるというのが漫画家の腕だと思うんです。でも失敗すると、99の真実を描いているのに最後の1の嘘ですべてが嘘になってしまうこともある(笑)。

なるほど。そのためにも漫画の資料写真というのはとても重要なのですね。

毎回描くときには、最低限の資料は絶対に用意するようにしています。でも、資料写真を渡されて、それをそのまま鵜呑みにして転用してしまうのはまずいんです。その資料を漫画の画風に合わせてデフォルメして描いたりしますから、その資料を理解してから描かないと、まったくの嘘を描いてしまうこともあります。だからやはり、自分で撮影した写真を使って描くのが一番いいですよね。

これまでにどんな場所に取材に行かれているのですか?

いろいろな所に行きました。航空機の話やモータースポーツの話を描いているころは、自衛隊の基地やサーキット場などに頻繁に取材に行っていました。自衛隊の基地などは、もう顔パス状態になっていましたから、ある程度出入りも許されていましたし、滑走路の端で三脚を立てて撮影してもあまり文句を言われなくなりました(笑)。そのあたりは、漫画を描いていてよかったなぁと思いましたね。

Photo(撮影・新谷かおる氏)
切り立った崖を撮影。「エリア88あたりのワンシーンに登場しそうな感じですが、ここに行ったのは連載が終った後」だとか。
Photo(撮影・新谷かおる氏)
イスラエルにある死海付近で撮影。広い荒野に延々と続いてゆく道路。これも、どこかのワンシーンに登場しそうな景色だ。

取材で苦労したことなどはありますか?

現在は行くことも少なくなりましたが、モータースポーツの取材のために鈴鹿サーキットの山の中を10kgクラスのカメラバックを2つほどかついで歩きまわったことですかね。30代の頃はまだよかったんですが、40代になるとさすがにね……(笑)。モータースポーツだと撮影のチャンスは一瞬ですから失敗は許されないんです。シャッターチャンスを逃すまいと大きな三脚と600mmから800mmぐらいのレンズ、それから予備の機材とバッテリー、持てるものは全部持っていこうという感じですから、現地ではもう大騒ぎになるわけです。

取材には主に、どのカメラを持っていかれるんですか?

F5、D1、D100ですね。今はD1で撮影することが多いかもしれませんね。デジタルカメラというのは、資料写真を撮る仕事のカメラとしてはとてもいいんです。撮った後、必要のない写真データはその場で削除し、コンピューターで必要なものだけ出力して、アシスタントにバーっと配って資料にする。漫画家にとっては写真はあくまで補助ですから、気軽に利用できるのがいいんです。でも、そういう意識で撮影をしていますから、フレーミングなどが雑になってしまって……まったく上達しないんですよ(笑)。写真をそのまま描き込むことはまずないですし、漫画家ですから紙の上でいくらでも自由に手を加えていけるんです。

被写体を見る目というのは、常に資料の対象を見る目なのですね。

そうです。普通はファインダーの中で絵づくりをしながら撮りますが、僕の場合は、これを撮っておいて、後でさっき撮ったヤツをここに入れようという感覚で絵づくりをしてゆくのです。

  • 注3 ル・マン24時間=毎年6月にフランスのル・マン市で開催される伝統的な自動車耐久レースのこと。24時間走り続け、走行距離を競う。ドライバーの技術や体力、マシンの速さ、耐久力など、様々な要因がそろわなければ勝つことができない過酷なレース。毎年世界中から注目を集める、ヨーロッパ最大級のモータースポーツイベントとなっている。

取材時に頼れる『仕事のカメラ』と仕事の合間の『癒しのカメラ』

先生が、長年ニコンを愛用してくださっている理由というのは何ですか?

写真を撮るにはやっぱり使い慣れたものが一番なんですよ。僕の場合ニコンであれば、どこにどのボタンがあるのか、というのを指が覚えているんですね。シャッターボタンの上に人さし指が自然に置かれ、ファインダーを覗いたままでもダイヤルを回したり設定を変えたりすることができる、これができないと分秒を争うようなチャンスに対応できません。取材となると失敗できませんから、慣れていないカメラでは怖くて使えません。
たとえどんなに優れた最新機種が出ましたと言われても、写すときにポケットから取り扱い説明書を出して読まなくてはいけないようであれば、僕にとってそのカメラは落第なんです。

写真を撮る道具として、ニコンのカメラが一番使いやすいということですね。

そうです。あと、僕にとってカメラは癒しの機械でもありますね。原稿のしめきりが迫ると、どんどん逃避願望が出てくるんですよ。仕事の合間にふとカメラを引きずり出してきて、一緒に地図帳と時刻表を眺めながら「ああ、ここ。このあたりはいま、ちょうど桜が満開だよね」とか言いながら思いを馳せるんです(笑)。今度はこのカメラであれを撮りにいこう、これを撮りにいこう、そんなことをぼんやり考えながらカメラをいじっているときが一番幸せなんじゃないかな。ちょっと消極的な感じですけどね。

新谷かおるさん

そんなとき手にするのはデジタルカメラですか? それとも銀塩カメラですか?

そうですね、やっぱり銀塩カメラですね。銀塩カメラにはタイムスリップの面白さがあると思うんですよ。カメラを構えた瞬間というのは、これを撮りたい! っていうすごい興奮状態にありますよね。カメラはその状態を確かに切り取ってくれる。でも、その写真を実際に見るときには、その興奮が冷めた状態なんですよ。その時間差があるのが面白いですよね。20年後に見ると、また違ってくるでしょうしね。それが写真自体の面白さじゃないかとも思います。

デジタルカメラの場合は、撮ったその場で写真が見られますね。

別にデジタルカメラを否定するわけではないんですよ。ただこれからは、銀塩カメラとデジタルカメラ、それぞれの役割が違ってくると思うんです。写真家でも、アマチュアでも、“写真”という作品を作る意識を持っている人たちは銀塩カメラを使い続けていくと思います。でも仕事として使う“写真”を撮るためのカメラであれば、デジタルカメラのほうがはるかに便利だと思います。

先生にとっては、デジタルカメラは仕事のカメラ、銀塩カメラは癒しのカメラという位置付けになるわけですね。

仕事のときには「やっぱりデジタルは便利だよね」と言っておきながら、次の瞬間には「また復刻版が出たらどうしようー」とつぶやきつつ、せっせとS3を磨いている(笑)。この使い分けのバランスが僕にとっていいんでしょうね。

これからも是非、ニコンのカメラとともに多くの作品を生み出していってください。楽しい作品を期待しています! 本日はどうもありがとうございました。