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vol.8 Joe McNally ジョー・マクナリー

Joe McNally

「ジャンルを超えた揺るぎなさ:オールラウンドプレーヤーとしての誇り」

フォトジャーナリズム/コマーシャル(アメリカ)

武器は守備範囲の広さ

私はプロフェッショナル・フォトグラファーとしてのキャリアの大半を、雑誌の世界で過ごしてきました。ライフ誌のスタッフ・フォトグラファー、スポーツ・イラストレイテッド誌の契約フォトグラファーとして、そしてここ25年ほどはナショナル・ジオグラフィック誌に写真を発表しています。そうした大きな舞台の中で、ありとあらゆる仕事に巡り合いました。著名人から報道、スポーツイベント、大がかりなプロダクション、スタイリッシュなスタジオワーク、コンセプチュアルな写真、ヘリでの空撮まで何でも手がけました。長年の活動の中で見知らぬ国にいわば「パラシュート降下」するように訪問する機会にも恵まれてきました。その一つが中国です。中国には1980年代後半から行き始め、12回目の訪問を終えたばかりです。訪れる度にその土地の魅力や、国の成長ぶり、熱気、そして歴史に目を見張ります。中国の人たちは、新しいものを熱心に受け入れ、フォトグラファーやジャーナリストに対してますますオープンになってきました。中国社会は、その一挙手一投足が世界に影響を及ぼすようになってきています。そのような国々での仕事は、フォトグラファーとして長年培ってきた能力を生かすことができ、写真に対する自分の情熱の再確認もできるので、とても刺激的です。フォトグラファーは自分の撮影を遂行するためだけでなく、カメラを向ける被写体と関係を結ぶためにも、熱意を持ち続けなければなりません。カメラは他人の人生に立ち入ることを許された「入国ビザ」の役目を持っています。それを当たり前のことのように考えてしまってはいけないのです。

私はライフ誌の往年のフォトグラファーたちを尊敬していて、わずかながらであれ彼らと同じように撮影しようと心がけてきました。著名人の撮影、戦場写真、スポーツ、政治、特集記事など、彼らは求められた仕事を何でもこなしてきました。時が経つにつれ写真は専門化しましたが、私はかつてのライフ誌のフォトグラファーたちのようにありたいと常に願っていました。堂々と意欲を持って、与えられたテーマを役に立つ機材なら何でも使って撮る能力を持つこと。ナショナル・ジオグラフィック誌のために撮影した私の写真には、毎回ジャーナリズム、物語性、ポートレート、コンセプチュアルな写真などの多彩な要素が盛り込まれています。ジャンルを多岐にわたって手がけてきたことが私の武器なのです。フォトグラファーであれば、使える道具なら何でも使わなければならないのです。

ヒーローとフォトグラファーへの萌芽

将来フォトグラファーになるとは、子供の頃は思ってもみませんでした。実際、20代前半まで真剣に写真を撮ったことさえありませんでした。でも子供の頃、父が持っていた古い写真集に目を通していたことは覚えています。何度も開いてページをめくっては、写真を眺めていました。当時はそれが私にどんな影響を与えているかなんて分かりませんでしたが、子供の私が知っている世界よりもずっと大きい世界が写真に収められていることに感動していました。私の家族は頻繁に旅行に出るタイプではなかったので、こうした写真が与える世界への窓はとても重要だったと思います。

写真を学び始めた時と同じように、子供のころに見た写真のことを振り返ってみたり、実際に写真集を開いてみることがあります。こうした写真集から、W・ユージーン・スミス、カール・マイダンス、アルフレッド・アイゼンスタット、ゴードン・パークス、ジム・スタンフィールドといったフォトグラファーが私のヒーローになりました。彼らをそのまま真似しようとしたのではありません。彼らの写真からフォトグラファーの魂を感じ取りたいと思ったのです。エルンスト・ハースと彼の写真集『The Creation』(1971年)も、私の人生に極めて大きな影響がありました。エルンストは亡くなってしまいましたが、この写真集は私に一つの基準を示し続けています。彼の写真と、自分のスタイルを貫いた彼の頑固さを振り返って考えることがあります。彼と同時代のフォトグラファーたちはハイスピードフィルムに切り替え、ハースにもその流れに従うことを勧めたのですが、彼は頑なに自分の道を歩み続けました。彼には理念があって、周りの世界が違う方向に彼を進ませようとしても、その理念にこだわり続けました。そんなところが好きです。誰もがこうした徹底した姿勢を持つべきで、作品に毅然とした精神が宿ります。

フォトグラファーの仕事は綱渡りの演技に似ています。時には自分を奮い立たせて仕事を続けなければなりません。一方で綱から落下するかもしれない失敗への恐怖心がやる気につながります。でもどんな時も、何としてでも意欲を持ち続けることが不可欠です。フォトグラファーは、否定されることも承知で臨むこと。創造への衝動が感じられなかったり、次の仕事がいつ舞い込むか分からない不安な時期も耐え忍ぶこと。不屈の精神が必要です。

フォトグラファーにとって最も大切なことは何かと問われれば、それは自信を持てということです。この仕事の90%は自信にかかっている、と若いフォトグラファーたちに常々話しています。自分の仕事に自信がなければ、そもそも撮影する意味がありません。フォトグラファーは新たな状況に合わせ常に新しいアイデアを生み出さなければなりません。自分を信じ、自信を外に示さなければなりません。

※感度が高く、より速いシャッタースピードでも適正露出で撮影できるフィルム

ストーリーテリングの重要性

良いフォトグラファーになることは、物語の良い語り手になることです。誰かが自分の写真を見てくれるときに、その場にいて説明できるわけではないのですから、写真そのものにストーリーを語らせなければなりません。例えば私の写真がナショナル・ジオグラフィック誌に掲載されれば、世界中の人の目に触れることになります。読む人がページをめくって私の写真を目にする時、私がその場に行ってその写真が何を捉えているのか説明することはできません。写真そのもので出来事の本質を捉え、当事者でない読者に物語を伝え、理解してもらう。その困難な課題が克服できれば、フォトグラファーとして名乗り続けて良いのだと思います。

最近の写真機材の技術は素晴らしく、以前なら不可能だった表現方法への道を開いてくれました。しかし気を付けなければならないのは、技術の進歩があればストーリーテリングの技術は要らないと思い込んでしまうことです。そうではありません。ニコンD4での撮影は素晴らしいけれども、かつてF2で撮っていたときも素晴らしかった。どちらもカメラであることには変わりないのです。技術は変化しても、フォトグラファーの任務は同じです。常によりよく伝達すること。技術そのものにその役目は果たせません。それを容易にしてくれるだけなのです。

完璧な写真は存在しない

実を言うと、写真を撮ってしまうと、その写真に対する興味はなくなってしまいます。撮った写真は一度見るとほとんど見返すことがありません。それはすでに「過去の写真」なのです。私を駆り立てるのは、次に何を撮るかです。何を撮ったかではなく、次に生み出される写真に向かって前進すること―フォトグラファーの精神には、そうした切迫感があるようです。撮り終えた写真で満足するようならば、その精神を失っているのであり、そういう場合は自分自身を深く掘り下げなければなりません。完璧な写真を撮ったフォトグラファーなどいないのです。完璧な写真を撮ることは、不可能だと分かる程度には利口でありたいと思います。年を取ったのでそう見えるのかもしれませんが。ですからフォトグラファーは常に努力しなければなりませんし、決して満足してはいけないのです。

光の重要性

これまでも数限りなく口にしてきましたが、これからも同じ事を言い続けたいと思います。光は言葉であり、フォトグラファーはその言葉を完璧に操れなければなりません。光を正しく使わなければ写真はその命を失います。光と光がもたらす影と模様が被写体に輪郭と内容を与えます。光はそれがどんな場所かを示すだけでなく、奥行きと立体感を与えます。光が写真に生命を吹き込むのです。写真の面白さは、それを構成するパズルのピースが一つ欠けるだけで、全てが台なしになってしまうことです。被写体が面白くなければ写真は面白くありません。どんなに興味深い被写体でも、適切な光なしでは、写真は崩れ去り、消えてしまいます。

ニコンD4

D4の作例撮影時に私が提案したのは簡単なアイデアではなく、撮影も同様に簡単なものではありませんでした。D4のような素晴らしいカメラに触れることができるのだから、D4の限界に挑戦するのがふさわしいと考えました。このカメラをどんなカメラも行ったことのない新たな領域に連れ出そうと目論み、実現困難なこれらの撮影プランを計画したのです。今や世界のあらゆる物が何らかの形で写真に収められているので、新たな領域の写真を作るというのは難しいものです。私の挑戦は、何をどのように撮れば今までにない写真が撮れるのか?どうすれば他の写真とわずかでも違いを生み出すことができるのか?アングルを変えることか?カメラを驚くような場所に置けばよいのか?今までにない照明の仕方で撮影するにはどうすればよいのか?今回のように、それを上回ることが難しい写真、真似することが難しい写真を撮ることを目標としたプロジェクトでは、私はこうした質問を自分自身に問いかけます。自由に想像を巡らせることも、今回のような仕事には大切なプロセスです。

私がD4に乗り換える最大の理由は、このカメラのレスポンス性能でしょう。私がカメラに常に求めているのは、より直感的に操作でき、目で見た瞬間と同時に状況に素早く対応できることです。このカメラには大きな進歩が見られます。私がこれまでメインに使ってきたD3SとD3Xも素晴らしいカメラですが、D4はさらに進化しています。私はクライアントに対して、私が知る限りの最高の道具を使う責任があります。D4はまさにそのカメラです。

新しいカメラの購入を考えるとき、私が注目するのは画像ファイルのサイズや操作スピード、コマ速などのカメラの進化したレスポンス性能です。スピードライトを使った撮影が多いので、測光システムの改善も重要です。D4の測光システムは、私がよく使うクリエイティブ・ライティング・システムの性能をさらに向上させています。フラッグシップは、全てを実現してくれました。
もう一つ、使ってみてすぐに気が付いたのが、肌色の改善です。写真講座の受講生にいつも話すのですが、たとえ他の全てを諦めなければならない状況でも肌色だけは忠実に再現する必要があります。写真を見る人の心を動かしたければ、肌の色は本物でなければなりません。D4は自然でなめらかな肌の階調を表現してくれました。

また、HDビデオの撮影は、どこの写真スタジオにとっても重要になりつつあります。クライアントからのビデオ撮影の依頼も増え、私のスタジオも手がけており、幸いにもそうした作業が得意な若いスタッフがいます。D4のビデオの質には驚かされるものがありますが、特に良いのはスイッチ一つで静止画撮影から動画撮影の間を行き来できることです。もちろんニッコールレンズとニコンのシステムでそれが可能なのです。

NPSの役割

1973年から私がニコンを使い続けている理由はたくさんあります。高品質な光学系や信頼できる性能や耐久性など、一般に言われていることも理由の一部であり、とても重要です。私は過酷な環境で撮影しますし、決して繰り返すことのない瞬間に巡り合うこともあります。ですから決定的な場面で壊れない、信頼できる機材が必要です。

しかしこうしたことが、長年ニコンを使い続けている理由の全てではありません。筋肉の記憶、別の言葉で言うと私の手と指はカメラの凹凸やボタン、ダイヤルの位置を知っていて、それが難しい仕事を成功に導いてくれることもあるのです。カメラの操作が分からなくなったり、目の前で物事が起きているのにカメラの設定に手間取れば、フラストレーションがたまり生産性も下がります。私はレンズのこちら側で流れるような自然さで動けなければなりません。レンズの向こうの被写体に期待するのと同じように、です。

NPS(ニコン・プロフェッショナル・サービス)のサポートも非常に重要です。特殊な撮影の仕事ではNPSの力を借り、機材や専門知識を提供してもらい本当に難しい撮影を助けてもらってきました。NPSがフォトグラファーのニーズに応えてくれるという安心感は、私にとっては大切な意味を持っています。

NPSは私が必要なときに応えてくれます。ある意味、いつもそばにいてくれますし、どんな時も電話の向こうにいてくれます。何年経ってもニコンが変わることなく、本当の意味で私と一緒に撮影現場にいてくれるというのは素晴らしいことです。ニコンのカメラを買うということは、ニコンとの人間関係を構築することであり、NPSはその関係性の最も象徴的な存在です。

フォトグラファーは情緒的な生き物です。私たちにとってカメラを買うというのは、単にレンズと金属と電子機器を組み合わせた機械を買うのとは違います。カメラを買うことによって、カメラそして製造業者との関係も始まっているのです。私たちはこの道具を現場に持ち出し、歴史や人間の置かれた状況、そして大小関わらず歴史的な瞬間を記録します。時には一枚の写真のために文字通り、全てを危険にさらすのですから、カメラメーカーの人間が塹壕の中に私たちと共にいてくれることを知っていたいのです。私たちが現場で直面する問題、リスク、そして難題を彼らに理解してもらいたいし、私たちの声を技術者や生産ラインに届けてほしいのです。誰かが私たちの声に耳を傾けてくれ、要望やアドバイスに注意を払ってくれていることを知っていたいのです。こうした関係性は、NPSによって最大限に、そして最も個々人のニーズに合ったかたちで実現されていると思います。

プロフィール

ジョー・マクナリーは、キャリア30年に及ぶ世界的に著名なフォトグラファー。これまで撮影で訪れた国は50カ国以上に上る。長年、タイム、スポーツ・イラストレイテッド、ナショナル・ジオグラフィックなど様々な雑誌に写真を発表してきたが、1990年代半ばには、ライフ誌で同誌23年ぶりの専属フォトグララファーに抜擢された。
権威あるAlfred Eisenstaedt賞を受賞しているほか、Pictures of the Year International、World Press Photo、The Art Directors Club、American Photo、Communication Arts、Graphisなどのコンテストで表彰されている。ナショナル・ジオグラフィック誌では、同誌史上初めて、全ての写真をデジタルカメラで撮影した特集「The Future of Flying」を発表。32ページにわたる同特集はその価値が認められ、米国議会図書館に収蔵されている。
後進育成活動も行っており、世界中で多数のワークショップを開催。一方、代表作の一つ「Faces of Ground Zero」は、2001年の米国同時多発テロによるニューヨークの世界貿易センターの惨劇に対する、最も優れた芸術作品として評価された。近年は『The Moment It Clicks』『The Hot Shoe Diaries』の著書2冊を発表し、2冊とも大手通販サイト・アマゾンのベストセラートップ10にランクインした。マクナリーの写真を使用した広告・マーケティングを行う企業・団体は、フェデックス、ソニー、ターゲット(米大手スーパーチェーン)、ランズエンド(米大手ファッション通販)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、メットライフ、アディダス、アメリカン・バレエ・シアター、野生生物保護協会など。

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