銀座ニコンサロン 2011年5月

第30回土門拳賞受賞作品展
石川 直樹

写真
コロナ
4/27 (水) ~5/10 (火)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

南太平洋のポリネシア・トライアングルと呼ばれる広大な海域に住む同種の言語と共通の文化を有する海洋民を、10年間にわたって追った旅の一区切りとなった作品である。
前作の、極東の島々の連なりの一つとしての視点から日本をとらえ直した『ARCHIPELAGO』に続き、海によって柔らかに繋がるポリネシアの小さな島々にも有機的なネットワークを持ちうること、強大な一つの中央ではなく無数の中心が共存する新しい世界のあり方を模索した作品である。また、島々の自然や人々の暮らし、なにげないしぐさを捉えており、動植物や気象に精通し、多様な自然情報を生きた知恵に変換する身体技法を身につけていた先人たちを彷彿とさせる。

受賞理由

石川直樹は、2000年代になって台頭してきた新進気鋭の写真家である。受賞作の写真集「CORONA」というタイトルは、2010年7月11日、石川がポリネシアのマンガイア島で見た皆既日食に由来する。しかし、この写真集には皆既日食のコロナの写真はどこにもでてこない。
石川は、この10年ほど、ポリネシア・トライアングルとよばれる太平洋の島々を巡り、この写真集にまとめた。ポリネシア・トライアングルとは、北限はハワイ、南東はイースター島、南西のニュージーランドにいたる太平洋の三角圏で、ヨーロッパの3倍もの面積があり、8000を超える島々がある。この広大な地域には、同種の言語をもつ海洋民による共通の文化圏が広がる。それは実際の国境で分断された国家ではなく、いわば自然発生的にできた“視(み)えない国家”とでもいうべき世界だ。
写真集は、ヌクヒバ島の聖地・天に屹立(きつりつ)する神秘的な巨大な岩体、大地から湧出(ゆうしゅつ)した地霊のような石像ティキ、黒潮の大マグロ、海洋民を象徴する刺青……。まるで神話的な時間軸を遡(さかのぼ)り、ポリネシア文化の根源的世界に突き進むのかと思うと、壁に張られたクリスマス島でおこなわれたアメリカの水爆実験の古びた新聞、日本語が書かれたままの中古車に乗るおばさん、子どもから老人まで多くの人々や風景が生き生きと写されている。
写真集の「あとがき」によると、皆既日食が起こった瞬間、太陽と重なった黒い月のまわりのコロナがまるで生き物のように蠢(うごめ)き、巨大な眼球が天空から地上を見下ろしているかのように感じたという。そして「あの一瞬、自分が見つめ、一方で見つめ返されたその先にあるものが、もしかしたら本当の世界かもしれない」と記している。写す人間と写されるモノの視線が重なった時、その奥に本質が視えてくる……。これは石川直樹という写真家の本質を知る上で重要な言葉だ。
石川の一連の仕事をみると、二つの異なる眼を使って写真を撮っているように思われる。一つは文化人類学をベースにして、宇宙から地球を視るような知的で無限大の眼。もう一つは現場に行って土地の襞々(ひだひだ)に入ってゆく動物的で至近距離の眼だ。
こうして彼が一貫して追ってきたのは、権力が造った国家や文化ではなく、“視えない国家”だった。
前著「ARCHIPELAGO」では、日本列島の中心は避け、南北に点在する群島を追った。その結果、南の端の台湾・金門島では中国、北のサハリンではロシア、クイーンシャーロット島ではカナダとアメリカ……。群島の“視えない国家”の背後から、不気味な姿を現したのは、巨大な国家だった。
“視えない国家”を追い続けてきた石川直樹の心の中に、いま、ブラックホールのように「日本」という国家が浮上してきているのではなかろうか。今後の石川の仕事に注目したい。(内藤正敏)

作者のプロフィール

1977年東京生まれ。2000年Pole to Poleプロジェクトの参加して北極から南極を人力踏破。01年7大陸最高峰登頂を最年少(当時)で達成。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。06年「さがみはら写真新人奨励賞」、「ニコンサロン三木淳賞」、10年『ARCHIPELAGO』(集英社刊)で「さがみはら写真賞」受賞。
著書・写真集に、『POLE TO POLE 極圏を繋ぐ風』(中央公論新社)、『THE VOID』(ニーハイメディアジャパン)、『NEW DIMENSION』(赤々舎)、『POLAR』(リトルモア)、『この地球を受け継ぐ者へ』(講談社+α文庫)、『大地という名の食卓』(数研出版)、『全ての装備を知恵に置き換えること』(晶文社)、『いま生きているという冒険』(理論社)などがある。

李 尚一 (イ・サンイル)

写真
光州 望月洞 (コウシュウ・マンウォルドン)
5/11 (水) ~5/24 (火)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

北アフリカのリビアを42年間にわたって統治してきたカダフィは、民主化を要求する市民に銃を向ける独裁者に転落した。2011年2月には、デモ隊に向けた無差別発砲によって200人余りの死者を出した。
1980年5月18日、韓国でもリビアのような民主主義の抵抗闘争があった。武力で掌握した全斗煥政権の退陣と民主政府を要求するデモが全国的に起きたのだ。その中でも激しい闘争となった韓国の地方都市光州では、デモ隊に向けて軍部隊が発砲する事態にまでなった。
当時作者は写真家としてではなく、命令を命として従順でなければならない軍人の立場にあって、市民に銃口を向けた。
全斗煥政権は、デモ隊に向けて野蛮な発砲命令を下し、190人余りが死亡、900人余りの負傷者を出す事態となった。その犠牲者をひとところに集めたのが望月洞墓地であり、ここを作者は、84年から現在まで写真を撮り続けている。
一方的な命令を命としなければならない軍人と、祖国の民主化をめざす青年というそれぞれの立場に立っていたという理不尽な理由によって、死者の肉体的な死と、作者の精神的な死がもたらされなければならなかった。
その辛く悲しい時を、その恨みを、作者は解きたかった。その混乱とともに変化の時間が流れて、自分自身の「望月洞」という息を殺した叫びは、死者と作者の暗鬱だった時代の容赦と和合の対象だった。
望月洞に罪心を持つ一人である作者は、自責を持って生きていく痛みを作品で訴えている。
モノクロ作品。

作者のプロフィール

1956年韓国慶尚南道山清郡生まれ。写真家。92年慶一大学校写真映像科写真専攻卒業。95年中央大学校大学院写真学科修士卒業。2007年釜山大学校大学院芸術文化映像学科芸術学博士卒業。97~2000年大邱芸術大学校写真映像学科講師。00~03年百済芸術大学写真科専任講師。03~07年慶一大学校写真映像学科教授。現在古隠写真美術館ディレクター。
主な写真展(個展)に、87年「人間探求」(韓国大邱-大邱現代美術館)、90年「おかあさん」(韓国大邱、光州-大百ギャラリー/ナンボン美術館)、92年「温山工団」(韓国大邱-東亜美術館)、93年「望月洞」(韓国大邱、光州-東亜美術館)、「おかあさん! その名前」(韓国大邱-ソジンギャラリー)、94年「光で貰った遺産」(韓国ソウル-セムト画廊)、95年「おかあさん!」(韓国大邱、ソウル-東亜美術館/ヌンギャラリー)、98年「人間と環境」(韓国大田-大田市民会館)、2000年「イ・サンイルの望月洞」(韓国全州-全北芸術会館)、2002年「Mementomory」(韓国ソウル-HOW ART ギャラリー)、03年・04年「記憶の鏡(戦争シリーズ)」(韓国釜山-栄光ギャラリー)、05年「同」(韓国蔚山-蔚山市北区文化会館)、09年「クラシックでの招待-望月洞」(韓国ソウル-Mギャラリー)、「東江国際写真際 写真賞受賞展」(韓国江原道-寧越学生体育館)、「古隠写真美術館 企画招待展」(韓国釜山-古隠写真美術館)などがあり、ほかにグループ展多数。
主な著作に、94年『光で貰った遺産』(ドドゥ出版社)、『明るい部屋』Vol.5(ヨルファダン出版社)、95年『おかあさん』(写真集・思考の海出版社)、2000年『李尚一の望月洞』(光州ビエンナーレ財団)、02年『Memento Mori』(サムキョン出版社)、『シン・キョンギュンの生と器』(図書出版デザインファクトリー)、03年『図鑑展』(図書出版プルンセサン)、08年『芸術でめし食う人々』(図書出版ヌンピッ)、09年『イ・サンイル写真集』(東江国際写真祭運営委員会)などがある。

東京写真月間2011 いきものランド
-生物多様性と共に-
宮崎 学

写真
となりのツキノワグマ
5/25 (水) ~6/7 (火)
10:30~18:30(最終日は15時まで)
会期中無休

写真展内容

昨年(2010年)国内展において「生物多様性」をコンセプトに様々な生物を育んでいる“森”を取り上げて写真展が企画されたが、今回はそれを一歩進め、あらゆる場所で力強く生きている生物に注目した企画展で、本展ではツキノワグマを紹介する。
最近話題に上るツキノワグマだが、一歩山に入ればいつ遭遇してもおかしくない状況といわれている。
人間社会のすぐ近くに生息する知られざるツキノワグマの実態を、作者自らの手作り機材で撮影した作品で、ツキノワグマのユーモラスな姿も含め、紹介する。

作者のプロフィール

1949年長野県生まれ。自然と人間をテーマに、社会的視点に立った「自然界の報道写真家」として活動中。78年『ふくろう』で第1回絵本にっぽん大賞、82年『鷲と鷹』で日本写真協会新人賞、90年『フクロウ』で第9回土門拳賞、95年『死』で日本写真協会年度賞、『アニマル黙示録』で講談社出版文化賞受賞。ほか写真集・著書多数。最新刊に、『となりのツキノワグマ』『カラスのお宅拝見』がある。