第13回(2011年度) 三木淳賞

juna21 添田 康平

Not yet refugees

内容:

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タボサンは唐辛子の瓶を丸ごと口の中に入れる。それを見る度に僕は大きく笑う。
タボサンは汗をかき、涙を浮かべる。きっと、タボサンにとってもそれは大変な事なのだろう。ただ、僕を楽しませてくれているのかもしれない。
ある日、タボサンと連絡が取れなくなった。僕はタボサンの立場を知っているから不安になった。
僕とタボサンがあったのは二年前。ミャンマー人の友達のゾウが紹介してくれた。タボサンさん。ゾウはそう言って少し笑った。
タボサンは難民だ。正確には難民の申請中だ。でも、僕とタボサンの間柄にはあまり重要なことではない。ただ一緒にいたいだけなのだ。
タボサンは僕と会う少し前まで入管の収容所に8ヶ月収容されていた。僕達はその時出来た友達の所を訪ねに行く。神奈川や山梨、栃木に群馬。皆、仮放免という一時的な保釈状況にいる。何年も申請し続ける者も少なくない。そして、いつまた収容されるかわからない。
ガラスに仕切られた部屋にタボサンが来る。
「スリランカの家族に電話してる?」と聞くと、「してる」と答えた。「でも、収容所に入ったことは秘密にしてて普段と変わらない」と、答えた。タボサンは母親が心配するから、と嘘をついた。
タボサンが写っている写真を毎回差し入れた。タボサンはゆっくり写真を見て、ニコニコしている。「ありがとう」タボサンは僕に言う。
その内、家に入管から手紙が届くようになった。封筒の中には手紙の他に絵も添えられている。ヘンテコな絵だけど、毎回僕を楽しませてくれる。モノクロ30点。

授賞理由:

作者、添田氏と難民申請中のタボサン氏の交遊の記録である。
現在日本政府に難民指定の申請を出し続けているミャンマーから出国してきたタボサン、しかし、タイトルにあるように「not yet refugee」である。
日本の入国管理局は、先進国の中でも厳格な制度を布いて、容易に申請を受諾しない。その、国内的状況を、表現対象としているのではないが、08年に添田は、偶然なことから、タボサンと交流を持つ関係になる。不定期に難民収容所の収監、出監を繰り返させられるタボサン。収容所内からの添田への手紙、解放されて友人を訊ね歩くタボサン、突然の再勾留。そんな経緯の中で、二人を取り巻く日常の関係を淡々と記録している。
しかし、作品内容は、単に二人の関係性に留まるものではない。核心は、今日的な制度のなかでは、「人」は、何処に所属するか? したいのか? 許されるのか? そこから疎外されることの怖れを提示していることである。
われわれは、日常的に国家という枠を意識することなく生きているが、タボサンが格子戸のむこうへと収監されてゆく後ろ姿を眺めながら、添田は「日本国」という抽象を収容所という物理的な空間の向こうに意識化している。タボサンが消えた向こうが日本なのか? 見送っている自分側が日本なのか? 己が立っている位置は、一体どこか? という自己相対化の想念にまで、彼は、行き当たっている。
人は、多くの枠に所属して生きている。家族に、会社、地域社会、そして国家に。そこから逸脱することで発生する困難と怖れを、「Not yet refugees」は淡々とした日常の記録で見事に表現している。
日本という特殊事情を背景に、添田のメッセージは、人は皆、地球人であると言うことであろう。

プロフィール:

写真

1984年東京生まれ。08年日本写真芸術専門学校夜間部卒業。鈴木邦弘氏に師事。09年桑原健太と桑田企画を設立。同年桑田企画Magazineを創刊。
写真展に、09年「seifu show 2009」(清風荘)、10年「seifu show 2010」(武蔵野公会堂ホール)などがある。