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ニッコールクラブ会員展

「旅のたまゆら 1981-1988」寺下雅一

撮影者プロフィール

1962年、東京生まれ。立教大学法学部卒業。2012年、写真展「おといねっぷの森から」(港区立高輪区民センターギャラリー)開催。

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インタビュー

今回の作品テーマは?

1980年代の鉄道風景です。今から30年も前の貧乏旅行の道すがら、日本の片隅にあるローカル線の情景に惹かれました。当時はまだ鉄道がムラの暮らしの中心にあって、人びとが常に集う場所でした。今見返せば鉄道とはその時代の生活やその土地の風土といったものを色濃く映す存在だったように思うのです。都会育ちの上、まだ若かったですから、その土地に根を下ろして生きる人びとの息遣いに心動かされましたし、そこに見るさまざまな人生のかたちのようなものに想いを巡らせました。

今の時代に発表しようと思ったのは?

写真の中の風景は今はほとんどが消え失せました。当時は他人に見せることなど意識せずに撮っていましたが、時代の流れが次第に写真を公にする意味を与えてくれたのではと思うようになりました。

印象的だった出来事は?

風来坊の若者に田舎の人たちは優しく、一人きりの駅長さんにお茶をご馳走になったり、地元の夏祭りに招かれてお酒をたくさん振る舞われたり。遠来の客を温かく迎える素朴な心根を感じましたし、それも大切な旅の思い出です。

伝えたいことは?

ひとつの時代の終わりに、古びた駅舎の隅に宿った空気感や湿度感を伝えられれば。それ以上は見る方それぞれの想いに委ねたいと思います。

顧問講評 織作峰子

とても良い写真ですね。カメラは今この瞬間を撮るツールで過去を撮ることはできません。つまり、写真は時代の証言芸術なのだということをつくづく感じます。撮っていなければ残っていない映像が、今この時代に蘇ることの素晴らしさ、そして、それぞれ写っている人びとや風景がもう二度と戻らないものであること……。しばしあの頃にタイムスリップをしながら、その時にしかなかった情景や情緒を味わいたいものです。