第65回ニッコールフォトコンテスト

講評

第1部 モノクローム「進化し続けるモノクロ表現」

 第1部モノクロームでは、毎回ベテランの男性の方々が多く応募され入賞も果たしていますが、今回は上位に女性の若い世代の進出が目立ちました。それはデジタル一眼レフカメラの進化と無縁ではなく、また真に道具として定着している証でもあります。そして、モノクロ表現が新たな領域にまた一歩踏み出した結果でもあると思います。

 ニッコール大賞に輝いた土肥美帆さん「生きる」は、北海道・小樽漁港をテリトリーにしている野良ネコたちの姿をとらえた4枚組ドキュメントです。ネコ写真で数々のコンテストで上位入賞を果たしている作者ですが、今回の作品は今までにない、ネコ=カワイイを排除して、半野生化したような野良として生きる姿と対峙し、種としてのネコの生態をとらえた力強い作品です。

 推選、水谷サコさん「わんぱく坊主」は、お孫さんを撮られた家庭内作品の極みです。元気なお孫さんに振り回されながらも、必死にその姿をとらえようとする作者の奮闘ぶりが目に見えるよう。3枚の組み方も絶妙で、とても魅力的な作品です。

 準推選、有田勉さん「綱引き」は、ニッコールクラブの会報フォトコンテストで1席に輝いたノミネート作品です。いつまでも色あせない普遍的な美しさとスケール感が魅力です。モノクロームの美しい空のディテールと、白黒のコントラストがはっきりしたメリハリのある校庭と綱を引く生徒たちをひとつの画面の中で織りなすという、さすがベテランの成せる技と、納得させられる単写真です。

 特選、畑中由紀夫さん「裏通り」は、内と外の対比、室内で頭を垂れて待つ人びとと、外で子どもを抱いた背筋がまっすぐ伸びた美しい和服の女性、ふたつの無関係の関係性が面白く見てとれます。単なる状況以上の魅力が作品に表れています。佐々木由香里さん「追憶」は、3枚組の心象風景的作品。若く瑞々しい感性と、落ち着いた表現力が相まって、味わい深く完成度の高い作品になりました。島岡章一さん「木造校舎追想」は、地元・長野県飯田市にあるまだ現役の木造校舎をさまざまな人が寄せる想いやモノたちの声を代弁するかのように、淡々と語りかけてくる心のこもった作品。作者のやさしさが滲み出ています。準特選や入選の中には、超ベテランの方々揃い踏み、ニッコールクラブの支部長のお歴々が顔を揃えています。そんな中で、準特選、菊池真子さん「HANABI」にストレートな強さと新鮮な息吹を感じました。入選の中にも、中家和子さん「さよならの雨」の旅情へ誘う不思議な魅力、藤﨑優子さん「浪漫鉄道」の正にロマン的表現の昇華、堀内啓治さん「初めての授乳」の忘れていた人間本来の姿を感じさせる表現など、女性の作品や女性がテーマの作品に個人的には魅かれました。

 ごらんのように今回のモノクローム部門も力作揃いでした。「写真の原点」とも言うべきモノクローム、間違うと古い写真と思われてしまうような危うさもありますが、デジタル時代になり、逆に新鮮さを帯びてきたのも事実です。真剣に取り組んでいる若い世代も多くいます。モノクロームをこれからの表現として、来年もさらなる進化を期待したいと思います。

講評 ハナブサ・リュウ

第2部 カラー「写真を撮り続けることの素晴らしさ」

 今年度からニッコールクラブの顧問に就任し、初めてニッコールフォトコンテストの審査を担当しました。65回という歴史あるフォトコンテストには、どのような、またどれほどクオリティの高い作品が応募されるのかと、期待に胸をふくらませて審査に臨みました。応募作品は想像以上にバラエティに富み、そして力作揃いでした。ニッコールフォトコンテストへ向けて日々試行錯誤し、作品制作をしている皆さまの様子が作品からも伝わってきました。

 第2部カラーの受賞作品をご紹介します。ニッコール大賞を受賞した小島実さんの作品「明日天気になあれ」は、入院というネガティブな状況が、暗すぎず、かといって明るすぎることもなく表現されています。4枚の組写真から、作者の心情が見る側に伝わってきます。独特の美しい色使いで表現され、入院中の静かな時の流れを感じました。

 推選に選ばれた伊藤邦美さんの作品「追憶の坂」には、祭りの人びとの動きやその場の雰囲気がいきいきと表現されています。まさに、躍動感溢れる写真です。準推選、堀内明宏さんの作品「ひと春の想い」はとても優しい色使いで、穏やかな春の日の雰囲気が伝わります。赤ちゃんの合わせた両手と瞳の輝きが、新しい春の始まりを予感させます。

 次に、特選に選ばれた3作品。バリエーション豊かで、またしっかりとしたテーマがあり、それらがきちんと成立しています。福田康幸さんの作品「霜切子」は、グラスの表面に霜をつくって撮影した作品。LEDライトなど人工的な光を使ってその美しさをとても綺麗に写し、鮮やかな色味が不思議な世界観を作り出しています。山田康さんの作品「イーグルハンター」は、モンゴルのバヤン・ウルギー県で撮影したもの。イヌワシとその主人の狩りの様子をリアルに表現して、4枚の構成を上手にまとめています。主人の眼差しがとても印象的です。ZHANG YUさんの作品「蒼白い夢」は、タイトルにもある「蒼白い色」のイメージを美しく作り出し、色と被写体との繋がりが感じられる作品に仕上げています。

 全体的な印象としては、色の使い方が上手な作品が多くありました。色表現によって印象的に仕上げられた作品や、テーマに合わせた色使いが効果的な作品が選ばれたように思います。また入賞作品に限らず、65年間続くコンテストに応募される作品には、その年の時代性が表れているように感じました。その写真に写る時代性こそが作品に厚みを持たせるのだと思います。

 皆さまの作品を拝見することで、写真を撮り続けることの素晴らしさを感じるとともに、私自身も制作への意欲がより高まりました。何かを写す、表現する、まとめることを、積極的に続けることで見えてくるものがあります。1枚1枚、その時々を逃さず大切に撮り続けると、その後の創作へ繋がる何かを見つけることができるはずです。

講評 佐藤 倫子

第3部 ネイチャー「根気強くとらえた奇跡の一瞬」

 今年もワクワクしながら、作品を拝見しました。自然界に熱い視線を向けて撮られた力作が揃いました。あらためて入賞した作品を見ると、「感動した!」と叫びたくなるほどです。特に感じたのは、じっくり観察して対象を自分のものにし、納得して取り組む姿勢です。

 では、ニッコール大賞に選ばれた作品を紹介します。成瀬亮さんの「富士変幻」です。これまでも富士山の写真はたくさん見てきましたが、まったく異なる作品に仕上げられています。作者の気持ちの高まりを、芸術として昇華させた表現が見事です。見ていて胸が熱くなりました。格調高い水墨画のような、版画のような仕上がりです。霊山としての富士山を壮麗に描き出しています。古典的な、撮影の対象である富士山。それなのに、この作品には新しさを感じます。そんなところも大きな魅力のひとつです。これから成瀬さんがどこに向かうのか、注目していきたいと思います。

 推選は、佐藤圭さんの「海鷲の肖像」が選ばれました。動物園ではなく野生のワシの顔を、真正面からシャープにとらえています。羽根の質感はもちろん、目の水晶体の透明感まで、リアルに描写されているところが凄い。若冲の絵のような、風格のある作品です。500ミリレンズの描写を存分に引き出し、地面に穴を掘って身を隠すなど、工夫を凝らして近距離から撮影した労作です。

 準推選の鈴木博文さん「母と子の四季」は、ニホンカモシカの同じ個体の母子を1年にわたって追いかけた作品。鈴木さんの愛情あふれる眼差しが、見る人の心に訴えかけるようです。四季の移ろい、そして親子の愛がドラマチックに描かれています。

 特選の高橋克己さん「ダンス」。この作品は、ニッコールクラブの会報フォトコンテストで1席に選ばれた作品です。小さなチョウをダイナミックにとらえました。複眼までハッキリと見えるほどシャープです。動きのある羽根の形、スピードライトを使ったライティング、露出のバランスも絶妙です。同じく特選、野島俊介さんの「夜明け」は、朝日が山頂に当たったわずかな時間の静寂をとらえています。非常にドラマチックな一瞬です。暗めにプリントしたことで、赤く焼けた部分が強調されました。全体をブルー調にしたことも、この雰囲気にふさわしい仕上がりになっています。同じく特選の廣池昌弘さん「姫蛍120秒」は、ヒメボタルの生育地の調査をする中で撮影されたそうです。最近は比較明合成で撮られることも多いホタルですが、廣池さんはすべて約120秒露光のワンシャッターで撮っています。鳥居や花など、シチュエーションの変化も豊かです。

 特選以外にも、印象に残る作品がありました。準特選・柿崎新さんの「系外惑星」は、面白い形の岩を見つけては、ローポジションからしっかりと構図をまとめて撮っています。奇岩を相手に奮闘している柿崎さんの姿が見えくるようです。水平線が写った1枚を組み合わせたことにより、グッとスケール感が出ました。石川県・片野海水浴場の片隅で撮られたものですが、トルコのカッパドキアのようにも見えます。ここでご紹介できなかった作品もありますが、受賞作品はどれも感動を覚えるものばかりです。根気強く奇跡の一瞬をとらえた1枚は、カメラと自分が一体になったからこそ得られたものではないでしょうか。やった! という作者の喜びは、見る人も幸せにしてくれます。

講評 三好 和義

第4部 Web応募「未知との出会いが楽しい」

 これまで、モノクローム、カラー、ネイチャー、U-31部門の中にあった「Web応募」というカテゴリーをまとめ、「第4部Web応募」部門として独立させての初めての審査。まず応募総数10,794点すべてをパソコン上で、皆さんが応募した画像のままじっくり拝見していきます。モニター上の写真はクリックひとつで拡大可能ですから、画質やフォーカス、ブレなどといったチェックがリアルタイムでできるので、私たちにはありがたいです。しかしどうしてもモニターでは、作品は「通過」していくしかありません。そのため最終的には予選を通った作品すべてをプリントし、他の部門のように並べ、入選入賞作の審査ということになります。したがって、画像サイズをあまり考えずに小さいままポンとご応募された作品は、残念ながら最終的に残らないこともしばしばです。Web応募の気軽さは歓迎ですが、やはり画像データを丁寧に保持していかなければならないということでしょう。

 さて、今回のニッコール大賞は髙橋達さんの「bonsai.」。盆栽のニューウェーブともとれる、空間、背景、配置などとともに、この古典的な世界を現代の美学として表現していこうというチャレンジ精神あふれる作品です。物撮りとしてのセッティング、ライティングなど、スタイリッシュにご自分の美学をよく表現しています。もともと発光体であるモニター上の画像だからこそのクリア感と、一体となったこの部門らしい作品といえましょう。推選の三崎文雄さんの「祈りの道」はインド北部で取材した力作。五体投地の祈りの道を18ミリレンズの画角いっぱいにしっかり描写しています。人びとのウェアのカラフルさと、雪をかぶった山々の冷たさがいいコントラストとなり、この光景に深い奥行きを与えています。また準推選の西本一紀さんの「華のある日」は、レリーズを持って撮影したセルフポートレイト。しかしながら顔は見えず花束。ここにどんな隠喩があるのかを想像する楽しみと、最後にご家族がいることの安堵感が、ほどよく調和する組写真です。

 特選、準特選の作品には、このWeb応募に顕著に見られる特徴のようなものが出ています。画像として綺麗に見栄えのするようにまとめる、作り込んでいく、そのための画像加工などの処理に習熟された方々がしのぎを削っているラインではないかと思えます。特選の南佑貴さんの「Mirror」、石﨑幸治さんの「水滴」、準特選の津田健太郎さんの「窓」、たるみかずおさんの「剣の旋律」などは色づかいといい、画像処理技術の確かさを感じさせます。そんな安心感のある作品もよいとは思いますが、せっかくの Web応募部門なのですから、もっと自由で思い切りいい作品も見せていただきたいところ。準特選の鵜澤あかねさんの「この地球の星(このほしのひかり)」や入選の伊熊友梨子さんの「金魚鉢のなか、あわせぬ言葉」、リュウキンキョウさんの「万華鏡」など、直感で撮り写真にしている腕力を感じさせます。Web応募部門では、こんな未知との出会いが楽しいのです。

 画像作りが上手くなり、褒めてもらえるというのは嬉しいことですが、第三者から「イイネ」を集めるだけでなく、そうして提示していく写真にどのように「現在」が表現されているかをまずご自分で確認し、今何を伝えていくべきかを考えてみるのもよいでしょう。

講評 大西 みつぐ

第5部 TopEye & Kids「自分らしく表現された素の感情」

 TopEye & Kids部門は昨年までのU-31部門を一部継承しながら、今年から新設されました。それだけに、どんな作品が集まるのか未知な分、審査員一同とても楽しみにしていました。おかげさまで多くの力作が集まりました。そのことを、とても嬉しく思っています。

 そもそもTopEye & Kidsの「TopEye」が意味するところは、中学生と高校生の写真部を対象として、ニコンが1979年から年4回発行しているフォトグラファー応援マガジンの名称から来ています。もうじき300号を迎えようとする、歴史ある雑誌です。その中に「フォトフォトサロン」という写真コンテストがあり、毎回2000点を超える応募があります。私はその審査を4年ほどやらせていただいています。最終的に「フォトフォトサロン」の上位入賞者の中から、全国15校の高校生が「TopEye全国高校生写真サミット」に選ばれ、毎年2月に横浜に集結します。そこで熱い戦いが3日間に渡って繰り広げられていますが、毎回、若い感性が生み出す多彩な作品に驚き、同時に大いに刺激を受けています。

 今回の「TopEye & Kids」部門新設は、そんな伝統ある「TopEye」世代に加えてさらに若い世代へ応募の間口を広げ、未来ある子どもたちの作品をより見てみたいという思いからです。

 大賞に輝いたのは、17歳の山本優花さんの「誰そかれ」という3枚組みの作品です。セピアがかった色味が特徴的ですが、実は二重構造と対比があります。少ない枚数でこれらを成立させることは簡単なことではありません。1枚目と3枚目は同じ距離感、意味合いを持っています。その間に瞼を閉じた女性が、ガラス越しに見えます。男と女、動と静の対比。全体を俯瞰すれば、女性の夢の中での出来事のようにも感じられます。組写真でしかできない表現です。

 推選には髙松志帆さんの作品「最後の練習」が選ばれました。ハンドボール部の顧問の先生が異動になり、突然訪れた別れの瞬間を丁寧にとらえています。短い時間の出来事だったはずですが、それぞれの表情を強弱つけながら撮影しています。貴く、美しい涙です。カメラを通した視線が15歳とは思えないほど冷静なことに驚きます。生徒たちが先生に寄せる信頼の厚さを無言のうちに感じさせてくれます。この写真は今しか撮れません。体験、感情の高まりは学園生活でしか経験し得ないことだからです。置かれた年齢でしか撮れない写真というものが確実に存在することを、この作品は再認識させてくれました。

 準推選には藤原夢乃さんの「Vision」という作品を選ばせていただきました。前述しました2作品とは、ずいぶんと趣が異なります。単写真のいさぎよさと強さが魅力です。学校の屋上で撮られたとのことですが、躍動感にあふれています。単純なようで複雑です。布、身体、空の3つの要素が見事に絡みあっています。布の絡みと重なりに直射日光が当たり、さまざまな表情を生み出しています。音楽を奏でているようなリズムと広がりを感じさせます。全体を通して何よりも感じたことは、多くの方が「素の感情」をてらいなく写真を通して表現していることです。悲しいから泣く、嬉しいから笑う、踊りたくなったから踊る、といったように、肉体より感情が先に走り出す姿、とでもいいましょうか。それは間違いなく若い世代だけが持っている特権です。危うさや儚さといったものも含まれています。だから、美しいのでしょう。

講評 小林 紀晴