第64回ニッコールフォトコンテスト

講評

第1部 モノクローム

 一昨年の長岡賞、荒井俊明さんの「里暦」に代表されるように、山里や漁村、島の暮らしなど、自然と人々が共存して生きる姿をテーマにした作品が目立つようになりました。地道に時間を積み重ね、被写体にきちっと対峙して信頼関係を築きながら制作された作品は、見る者に感動を与え、高齢化や過疎化といった事柄にも向きあって、社会に対するメッセージも込められています。しかし、大上段に構えることなく自然な距離感で、淡々と日本の原風景を求めているような癒される作品が多いのです。

 今回のニッコール大賞、星川明美さん「M子さんの暮らし」も通い詰めて、信頼関係を築いた作品。滋賀県の高島市郊外・比良山地の麓で、馬と暮らす女性の物語です。ロハスやエコロジー、ミニマリストなどのことばが使われるように、現代はモノが溢れた都会の生活に対して、決して肯定ばかりではありません。そんな別世界の営みがここにはあります。ひと昔前であれば、貧しい生活を取材しているように見えてしまうかもしれませんが、今日では自然の中で馬と共に暮らす、自由で伸び伸びとした豊かさを感じます。その精神を丁寧に紡ぎだそうとした作品です。

 推薦、杉江輝美さん「夏休み」は、ニッコールクラブの会報フォトコンテストで1席になった作品。海に飛び込む子どもたちのワクワクする喜びが写し出され、爽やかで透明感があります。

 準推薦、宮崎豊さん「夜の北新地」は、大阪の盛り場のドキュメントです。奇妙な人間模様が浮かび上がり、摩訶不思議な世界を展開した力作。

 特選、細川寛太郎さん「初恋」は、女子高生の淡い青春の心情を端的にとらえています。背景の町並みのとらえ方が上手です。吉田美和子さん「お茶目な子役」、何とも面白い顔をした子役。写真でしか見せられない単刀直入な表現で、シャッターチャンスの勝利です。藤﨑優子さん「大賑わい」は、京都美山の放水イベントを面白い風景としてとらえています。普段はひっそりとした山里に、大勢の人々がやってきた様子はハレの舞台のようです。

 準特選、山中健次さん「都会の動物園」は、都会で囲われた動物たちに複雑な思いを感じます。室田あいさん「僕たちの休日」は、人気の沖島で休日を過ごす人々のスナップショットです。程よい距離感で、撮影者を感じさせない臨場感があります。上出優之利さん「新宿ハッピー」は、夜の繁華街の狂乱ぶりを面白くとらえています。高いコントラストが効果的。櫛田雄一郎さん「水辺の農村」は、インド南部の農村での微笑ましい水遊びの兄弟。顔と足の関係が面白く見えます。竹田洋祐さん「朝もやの牡鹿」は、早朝の若草山で対峙した牡鹿の姿が凛々しく、靄がより存在を高めています。山下廣子さん「二人の卒業式」は、和歌山県有田川町にある小さな小学校の卒業式。記録することの重要性を教えてくれます。岩城治さん「ハロウィンの子供」は、1枚写真のチカラを感じます。一見の強さです。クワバラハクさん「うかがう」は、とてもオシャレな作品。低いアングルと美しい犬のシルエット、空間の取り方が上手です。江上正治さん「震度7╳2」は、熊本地震の被害各地をストレートに撮影。自然の驚異と人間の無力さを感じますが、向き合うことの大切さも教えてくれます。

 入選にも優れた作品が多く、また最終選考に残った作品にも記憶に残るような力作が多くありました。改めてニッコールフォトコンテストの凄さを感じました。

講評 ハナブサ・リュウ

第2部 カラー

 多くの写真愛好家が寝る間も惜しんで東奔西走し、足繁く撮りまわって生まれた作品の数々。その中からさらに選び抜かれた秀作がここに集いました。毎年一度のこの表彰式を目標にしてカメラを手に励んでこられた皆さま、また、長年にわたって写真を愛しニコン製品を愛し続けておられる永年継続会員様の表彰は、我が事のように心踊り、敬意をもって感動の場に毎年列席させていただいています。

 さて、今年の第2部カラー部門は2万点を超える多数の応募作品が集まりました。ニッコール大賞に輝いた有田勉さんは、ニッコールクラブの会報フォトコンテストにおいてこれまでにも多くの賞を受賞されています。この度の大賞は、待ちに待ったといった感じではないでしょうか。本当におめでとうございます。「別れの日」というタイトルからすると淋しさを予感させるのですが、写真には沢山のご馳走が並び、ご近所の方々が集まっている様子が写っています。いつもと違う状況を覗き込む馬の目はやや落ち着かないようにも見えます。馬は賢いと言われていますから、もしかしたら過去にもあったであろう記憶を思い出してお別れの日が近いことを感づいているのかもしれません。大事に育て上げた馬と別れる淋しさと、馬が売れたことを喜び祝う気持ちが交差する、人間と馬との素晴らしいドキュメンタリー作品です。斜め俯瞰から撮影したアングルにより、全体像をくまなくとらえているところもさすがです。

 推薦の宇都宮修さん「GROOVE」は動画を見ているような躍動感と、夜間の照明を活かした撮影ならではのアンダートーン、高めのコントラストが印象的です。決めポーズのカットばかりではなく、足元に寄った1枚が入ったことで作品にメリハリがつきました。  準推薦・平山弘さんの「施餓鬼供養」は、新盆の儀式を準備から夜まで一日がかりで歩いて撮影された作品です。上から下から煽りながらと、さまざまな角度から見せてくれました。板東利明さんの「遊泳」は、ビデオを逆回ししたかのような不思議さに撮影状況欄を見ると「後ろに飛んだ少女」と書かれていました。どおりでスカートや髪の毛が前に流れる訳だと納得。実にユニークな作品です。年々組写真が増えていますが、ニッコールフォトコンテストの上位に選ばれた組写真のレベルは高いと思います。ぜひ、参考にしていただきたいです。

 顧問全員で毎回真剣に審査をしていますが、最も残念なのは賞位決定後に耳に入る規定違反作品のことです。類似作品や、重複応募、画像処理加工(データ票に加工の詳細を記載している場合は問題無し)など……。フェアな気持ちでコンテストに臨んでいただきたいと願っています。入賞した皆様には心よりお祝い申し上げ、益々のご活躍を楽しみにしております。

講評 織作 峰子

第3部 ネイチャー

 ネイチャー部門の審査は、例年にも増して激戦だったように思います。どの作品も、どうやったら撮れるのか? どのような状況なのだろうか? と思わせるものばかり。どれだけ粘って苦労して撮ったのだろうかと、審査しながら思いを巡らせました。その中でも、人の想像を超える自然の神秘をうまくとらえた作品が入賞しました。Webでの応募作品が数多く入賞しているのも、今回の特徴のひとつです。上位作品の3分の1がWeb応募作品でした。

 では、ニッコール大賞に輝いた作品をご紹介します。「知床の夜」を撮影した河本新二さんは、昨年のニッコールフォトコンテストでは水中写真で入賞された方ですが、今回は動物を被写体にしています。ライティングをすることにより、野生動物を暗闇の中から、印象的に浮かび上がらせています。正面からのライトではなく、サイドから当てることにより、毛並みの質感がリアルに写し出されました。シャッターを切る瞬間の緊張感が動物の呼吸と同調し、息遣いが伝わってくるようです。写真1点ごとの構図も安定感があり、縦位置に揃えたことによって格調のある作品に仕上げられています。今までにない作風に感心しました。

 推薦は、秋山ゆき子さんの「大雪山の秋はぜ~んぶ僕のものさ」。この作品は、リスの愛らしい姿を80-400mmのレンズ1本でとらえています。秋山さんもリスたちと一緒に、色づいた秋の山を走りまわって撮影している様子が目に浮かぶようです。愛情あふれる作品に感動を覚えました。小さなリスの動きを鮮明にとらえた、楽しさが伝わる可愛らしい作品です。

 準推選の千葉逸子さん「母になるまで」は、ニッコールクラブの会報フォトコンテストで1席に入賞した作品です。吹雪の中、雪原に立つ姿を望遠レンズで撮っています。大胆なアングルで力強い作品。うっすらと雪を被った馬の毛の質感と、白い雪原のコントラストが絵画的で格調高く仕上げられています。母馬の体温と呼吸が伝わってくるようです。

 特選に入賞した新田学さんの「STARRY STARFISH」は、星空の下で見つけたヒトデを美しく神秘的な作品に仕上げました。海面に映り込んだ星まで写っています。デジタル時代になってから近年、星を撮った作品をたくさん見ていますが、この作品の完成度の高さはひときわ輝いています。住友輝明さんの「阿蘇『2015』」は2015年5月11日に阿蘇山の噴火口付近を撮影。地球の鼓動を感じるスケールの大きな作品です。また、緑川邦夫さんの「春の訪れ」は命のエネルギーを感じさせ、非凡でドラマチックな組み方も優れています。

 命の尊さや自然の儚さ、美しいだけでなく力強さをも感じさせてくれるネイチャー写真は、文章では表現しきれない深いものがあると感じました。入賞作品には感動的な作品が並んでいます。観察を重ね、知識を持って、磨かれた感性に基づいて撮られた作品は、見る人々の心を動かすものです。

講評 三好 和義

第4部 U-31

 U-31部門の審査は第1部、2部、3部と白熱した審査の後に行われます。その余韻はもちろんありますが、少し違う期待も私たち審査員は多かれ少なかれ抱いていると思います。それはやはり、未知の若い人たちが彗星のように煌めきを放ち出てくるのではないかという勝手な想像。今回は昨今精力的な活動でお忙しい中井精也さんをゲストにお迎えしていましたから、なおさらです。溌剌とした作品に出会いたい! 中井さんの笑顔もそれを語っていました。

 これまで同様、今回もWeb応募が多く、皆さんの普段の写真活動がモニター上での作業中心に行われているだろうことがよくうかがえました。そこには画像をより美しく、あるいは効果的なレタッチでつくりあげる技術的なスキルアップがよく反映されています。しかし、一見「よく見える」ものの、いまひとつ内容に踏み込めない、また作品世界がこちらに向かって刺激してくれないという一種のもどかしさをもたらすものも数多くありました。そうした中で上位作品が絞られていきましたが、最後の最後まで混迷を極めたという経緯があります。

 大賞の伊藤教宏さん「それでもパリは沈まない」は、タイトルが明確に内容を示し、同時多発テロ後のパリ市内の「現在」を身体ですくいとるといったエネルギッシュな組写真です。そのカメラワーク、プリントの色合いやトーンも秀逸な技術が発揮されています。また、推薦の深野達也さん「優しい場所」は実直な撮影で、写真撮影の原点を感じさせる気持のよい作品。そして準推薦の渡邊智之さん「これまでとこれから」も、養蜂を営む親子を同じような優しい眼差しでとらえています。それぞれ内容はとてもよいのですが、組写真としては本当にこの並びでよかったのか、と思わせるものがあるのも事実です。しかし、これもU-31部門の特権と言えなくもありません。この部門からアマチュア作家、あるいはプロへと旅立つ人々が出てくるとしたら、今は「完璧さ」よりも「挑戦する姿勢」を評価したくなります。誰かの言いなりにならず、まずは自分の思ったように、悩みながら写真を選んでみることが正解でしょう。

 接戦となった上位作品以外には、特選の加藤徹也さん、栗田一歩さんのように、画像処理を丁寧に施しきれいな作品に仕上げたもの、あるいは準特選の鈴村雄誠さんや藤原岳さんのように、海外で出会った人々を素朴にとらえたものなど、いくつかのカテゴリーが出来上がりつつあります。そうした中で驚いたのは、なんといっても準特選、平本風和さん(9歳)の「ゴジラ ’54」です。映画「シンゴジラ」の影響があったのでしょうが、堂々として自由な発想こそがU-31部門にふさわしいものだと、審査員全員が思いました。まだ9歳なのですから、これから写真をたくさん撮って技術を磨くことは必要ですが、この溌剌さをどうかずっと忘れないで欲しいものです。

 写真を撮ることは楽しい、できた作品を誰かに見せたい、話したい。「写真」に出会ったあの頃を、誰もがもう一度振り返ってみてもよいのではないでしょうか。上手く仕上げるだけが写真の世界ではありません。キラキラとした煌めきをカメラとレンズに伝える、その心の再発見がこのU-31部門では特に望まれます。

講評 大西 みつぐ